物語は動き出す 1
森深くで目を覚ました神薙 相馬は、体を起こして服についた汚れを払い落とした。
相馬の服装は、シンプルなジャージだった。
周りを見渡し、取り敢えず森から出るを目的とした。風景の色は、変わらずモノクロだった。
方角が分からない。どこへ行けば森に出ることができるのか分からないが、取り敢えず歩いた。
北極星。モノクロしかわからない相馬には、意味が無い。
森の中は、葉が生い茂っていて、進む道にある葉を手でかき分けながら、前へ前へと行く。
そんな時だった。「きゃーー」という、女の叫び声が聞こえた。相馬は、勇者じゃないし、面倒事には、関わるのは嫌なので、声がした方の反対方向を歩いた。
前の葉から何かが出来た。伝説の何かと言えそうな無駄に装飾を付けた鎧を身に着け、剣を背中に背負っていたイケメン。髪が走るたびに後ろへ流れていて、額に汗を浮かべながら、声がした方へ向かっていた。
ちらっと俺を睨め付けてきた気がするが、気にすることなく、俺は、前へ進んだ。
次の瞬間、俺の腰に何かが抱き着いた。相馬は、後ろを振り向き、抱き着いてきた正体を暴く。
「わ、私を助けなさい」
さっき聞こえた叫び声と同じ声。嫌な予感しかしない。
ロングヘアー。そして、綺麗に整った顔。相馬の腰より少し上くらいの身長。これを美少女以外で何と例えればいいのだろう。
「え、いきなり、何?」
「わ、私を助けてくれればいいの!」
何、この上から目線の言い方。腹立つ。
美少女は、近くの葉の茂みの中に逃げた。すると、さっきの金髪イケメンが、出てきた。
「銀髪の少女を見なかったか?」
「見っ」
相馬の足に痛みが走った。
「い、いや、見、見てないです」
「本当か」
大きな声で威圧するように問う。
「人を信じれるようになりましょうよ」
「ふん、余計なお世話だ。勇者の我に、指図するな」
面倒くさいタイプだ。友だちになれないランキング一位にランクインしている。自分から勇者名乗るとか、勇者主人公の片隅にもおけない。いや、モブキャラ以下である。
それに、人を信じてはいけない。信じるといつかは裏切られる。周りについていけない人間は四捨五入で切り捨てられる。つまり、ついていけないレベル4からレベル1の人は、ぼっちとなるのだ。そして、上位の責任を全て負うことになる。
「もし、嘘をついていたら、その首は、土の上だ」
は、何言ってんのこいつ。
イケメンは、ドヤ顔をして、相馬の前から立ち去ったのだ。
「やっと、どこかへ消えてくれたのね」
茂みから美少女が出てきた。
「ありがとね。え、えっと、ゾンビさん」
「それは、失礼じゃないのか?」
「だ、だって死んでるんだもん。顔が」
「……なら仕方ないか」
こいつは、人の顔であだ名を決める人間だ。嫌いな人ランキング上位だね。
「そのまな板を揉ませてくれたらいいよ」
「まな板?」
「いや、名前を変えろってこと、ちゃんと名前言うからあだ名はやめろ」
「わかったわ。私は、リリス・ピオーネよろしくね」
「俺は、相馬だ。神薙 相馬だ」
「そうま、そうま、ソーマ。……分かりやすいからゾンビでいい?」
結論はゾンビなのですね。
「もう、何でもいいです」
これ以上名前を変えろと言えばゾンビ以上の名前が出てきそうだ。悪い意味でだ。
「で、話を変えるが、ピオーネは」
「リリス」
「は?」
「リリスって呼んで」
「リリス?」
「何で疑問形なの」
「……っで、リリスは何でこんなとこにいんだ。さっきのやつはなんだ?」
「あ、話を逸らした」
「逸らしてない。戻しただけだ。てか、早く質問に答えろ」
「……はぁ。わかったわ」
そうして、リリスは答える。