3
涙しか流すことができない俺は一晩中、涙を流していた。表情は一切変わらずに。
気が付けば、世界の色が、黒から灰色になっていた。俺は、体を起こしてベンチに座った。朝になったのだ。
そして、空を見つめていた。雲一つない良い天気だった。
後ろから視線を感じ、振り向くと、中学生時代のマドンナが俺に近づいて来た。
「どうしたのかな?相馬君」
笑顔で俺に話しかけた。俺は、
「どうやったらそんな表情ができるの?」
「えっ……」
マドンナは黙った。しばらくして、
「毎日が楽しいから、かな。だから自然にこの表情になっていた」
「毎日が楽しいから、か。俺は人生が狂って表情を失っただよね」
ここで、笑顔を出来ればよかったのだが、口の形を歪めることしかできなかった。目は虚無感を感じさせることしか出来なかった。
「……」
マドンナは、黙り、そして、どこかへ消えていった。
昔の俺を期待していたのかな。どこかへ消えていくマドンナ背中には、何かが無かった。
どうすればいいのだろうか。目が悪いのかな目を両方潰せばいいのか。でも、痛いだろうな。
モノクロしか映らない目。現実から逃げれるから嫌いにはならなかった。
そう考えているうちも時間は進んでいく。中学生が俺を見ては、こそこそと何かを話していた。
耳をすませば聞こえてきた。「あれは人生の負け組だ」と。
そう思いたければ勝手に思っておけばいい。人間とは、見下すことで自分の優位性を感じる屑なんだから。
俺は、人間じゃない。じゃなかったら、モノクロしか見えなくはならないはずだ。
だから、俺は、人間じゃない。『化け物』なんだ。
だだ、ぼーっとしているだけで、時間は早く過ぎていく。気が付けば、灰色から黒に変わっていた。
俺はベンチに寝転んだ。
すると、声が聞こえた。
「お兄さんは世界が何色に見えるの?」
幼い女の子の声だった。
暗闇で何も見えない。月明りも星の明るさも頼りにならなかった。
「お兄さんは世界が何色に見えるの?」
再び聞こえてきた。俺は、
「モノクロ」
そう答えた。すると、
「だったら、ぴったりだね」
幼い女の子の声は嬉しそうだった。
「これ、お兄さんに五円であげる」
お金を要求するのかよ。
何を貰えるのか分からないが、俺はポケットから五円を取り出した。
すると、人形のような細い手が見えた。俺は、そこに五円を乗せた。すると、紙切れを持った手が現れた。
「これはね。異世界への片道切符なんだ」
片道切符。もう帰れないってことだろうな。別にいい。俺の居場所はこの世界にないのだから。
俺は、紙切れを受け取った。
「じゃあね、お兄さん」
幼い女の子は、姿を消したのだろう。風、ピューっと吹いた。
異世界への片道切符。ただの紙切れにしか見えなかった。
俺は、紙切れをポケットに入れてベンチに寝転んだ。
そして、次の日が訪れなかったのだった。
次こそは異世界に転移しているのだろう。作者の俺でも知らない。気まぐれ変わっていくプロット。