病んでる女が親友の女に身勝手な愛をぶつける話
儚くて雪みたいに美しい友達がいた。
家は大きな財閥でお金も地位も将来もあるのにちっとも鼻にかけていない心のきれいな少女だった。
甘味所で出会った私たちはすぐに意気投合してかけがえのない親友になった。
その日もいつものようにあんみつを食べながら会話に花を咲かせていた。
近頃の私たちのお気に入りは蜜柑の入ったあんみつ。
小さな蜜柑の甘さとシロップの組み合わせが
味覚を幸せにしてくれる。
おいしいね、といつもの調子で私が言う。
けれどその日の彼女はいつものように私の投げかけに肯定の言葉を返してはくれなかった。
なんだかどうしようもなく不安になって彼女の顔を覗き込む。
彼女はじっと自分の手のひらで包んだあんみつの器に視線を落としている。
「ねえ、私へんなの」
ようやっと聞こえた彼女の声は不安と困惑で寒そうに震えている。
「胸がちくちくする、ずうっと痛いの」
「それはよくない事だわ、お医者様のところへは行ってみたの?」
「いいえ、まだ…けれどそうした方がいいのかしら、心臓に魚の骨でも刺さったのかな」
心臓に魚の骨が刺さるなんてことは無い、もしかしたら病気かもしれないじゃないか。
「横になりなよ、誰かよんで来るからさ」
「いかないで」
顔を上げた彼女は折り入って頼むような表情で泣いていた。
「でも痛いのでしょう?」
「あなたが離れたらまた痛くなってしまうわ」
「なぜ?」
彼女はまた問いに答えず私の指先に泣きすがっていた。
私はわけがわからなくて、つられ泣きしそうだった。
甘味所の店主がびっくりしたようにこちらを見ていた。
ここでは場所がよろしくないと思い彼女の手を引いてその場を後にする。
泣きすがりはじめてからの彼女は、とても会話のできる状態では無いように見えた。
正確には、私が話題をふれば返してくれるのだろうけれど、人前でそれを行えばなにか取り返しのつかない事になりそうだった。
彼女の家は遠いからとりあえず私の木造アパートにあげた。
ざぶとんに座るように促しつつ、私の指先を彼女から取り返そうとしたが無駄だった。
しょうがないので空いている手で彼女の頭を撫でてみる。
「ちくちくする」
「やっぱりお医者さんに行きましょうよ」
「違う、違うの」
彼女の細く雪化粧をしたような手のひらが着物の上から私の鎖骨を急に撫でた。
ぞわわ、と背筋が寒くなった。嫌な予感が脳を掠めてのけぞった。
「いきなりなに、やめてよ」
私が分かりやすく身振りで不快であることを示すと、彼女は悔しそうに下唇を噛んで鎖骨から手をのけた。
さっきまでの不安そうな視線が熱を帯びている。
いつもの彼女からは想像できない自分の気持ちだけをさらけ出したような表情。
彼女は動けずにいる私の鎖骨にまた手を伸ばし私に寄りかかるように唇を重ねてきた。
優しく重ねられたそれが気持ち悪くて仕方がなくなり彼女の手を振り払う。
けれど彼女はまったく怯まなかった、熱に火照らされたその表情で私を腕の中に捕まえようとしてくる。
今までの彼女が、私の中にいた彼女が、がらがらと気味悪く崩れていく。
「好き、好きなの、私、貴方が、好き。女同士だけれど、諦めようとしたけれど、貴方といる時間が募ると駄目なの、無理だった」
ただただ怖かった。
やめて。きらい。きもちわるい。その言葉を伝えようとしても舌が絡まってうまくいえない。
「好き」
彼女はひとりよがりな言葉を呪いのように吐きつづけている。
ああ、ああ、怖い。ただ怖い。
もう一度唇が重なった。
もう駄目だ。
抵抗する気力がなくなってしまった、疲れてしまった。
彼女は私のことを好きだというのになんでこんなにもずたずたに私の心を切り刻むのだろうか。
空気の入る隙間も無いくらい彼女は体を密着させてくる。
脳みそまでひんやり冷えた私と違い彼女の体は温かく、熱く、彼女の心臓の動きが伝わってくる気がする。
彼女の着物から見え隠れする赤みのさした肌が気持ち悪い、崩れる前はあんなに上品できれいだと思ったのに。
「きらいよ」
「これから好きになればいい」
やっと搾り出した裏切られたことへの恨み言葉は簡単に殺された。
それならいっそ。と彼女に害を為す行動が頭に浮かんでも私の中にある壊れて戻らない友愛がそれを邪魔する。
なんてひどい人なのだろう。
そんなに私が好きだというのなら、抱きしめて、そのまま抱き潰してやろうかしら。




