第2章 第58話 好敵手へと
「今の私、強いから」
そんな言葉が心の底から出るなんて思いもよらなかった。自分を奮い立たせるための口実として使うことはあったけど、今みたいに本当の意味でそう言えた。
「おらぁ!」
「とうっ!」
灰色の世界が輝きに照らされる。2つの魔神剣の衝突は、まるで革命であるかのように激しく、そして変化をもたらすものだった。
「いいねぇいいねぇいいねぇ!!!もっと踊ろうぜ!!」
「受けて立ちましょう!ちゃんとついてきてくださいよ!!」
「へっ!誰に口聞いてんだ?」
「そっちこそ!」
お互いの攻撃が火花を散らし、時には身を削り、時には空を切る。地面は徐々に赤に染まりつつあった。
2人はもう満身創痍だった。避けることを忘れ、防ぐことすら億劫になり、そして今、ただ結末に向かって相手と切り合い続ける。
「ふはははは!いいねぇ!最っ高だねぇ!!」
「共に参りましょう!気高き終焉へと!」
二人の間に入って戦いを止めることが出来るものはいなかった。心も、苺も、龍護も、シェリーも、カールも、増援に向かおうとしていた敵軍までも。世界最高戦士同士の戦いに見とれていた。
「はぁ…はぁ………次で最後…か」
「はぁ……はぁ……こっちも…次が最後になりそうです」
互いに距離を取り、息を整えながら最後の言葉を交わした。全身には数え切れないほどの裂傷を負い、地面に滴り落ちる血は先刻の剣戟の激しさを物語っていた。
「はぁ……はぁ…行くぞ!『彗星剣』最終伝…虚空!」
「ふぅ…………『夢幻想奏』…ねぇ、最後の希望を」
かつて、魔神剣を持った者同士が死闘を繰り広げた。1人は痩身で、もう1人は幼い少女だったと言う。伝説の1つとされ、今も語り継がれるその『死闘』は、今再びここに現れた。見る人全てを魅了し、どちらかの命が尽きるまで終わらない戦い。この戦いを『死闘』と呼ばず、何を死闘と呼ぶべきか。
「行っ……けぇ!」
「……行きます!」
同時に地を蹴った2人の剣は、狙い違わず互いの心臓を穿った。大きな衝撃波と共に、血と小さな肉片が散らばった。
「やっぱり……俺の負けだ……強いな英雄」
「あなたも……ね。それと、私は莉音。桜崎 莉音」
「そう……か………メーズ…俺はメーズ・クロノウェルだ」
互いに剣を突き刺したまま、素直に賞賛し合った。そして、メーズが虚ろになった目を閉じる前の刹那の時、メーズは最後の言葉を好敵手へと送った。
「ありがとう……最後の相手が莉音で……良かった」
これが、『彗星剣』メーズ・クロノウェルの最期だった。そして、2本の剣が魔力となって四散した時、莉音は限界を迎えた。とめどなく溢れる血の中に倒れ込む莉音の表情は、笑っていた。




