第2章 第57話 大切な仲間
剣が舞う。
こうやって表せば綺麗に見える。けど、実際は違う。相手をいかにして殺すか。ただそれだけがぶつかり合っている。戦争なんて結局はそんなものだ。今も、昔も、やってることは何一つ変わらない。
「おいおいどうした!動きが散漫になってきてるぞ!」
「くっ」
「そっちこそ、そろそろ疲れてきたんじゃない?せあぁ!」
「こっちはまだまだ行けますわよ!」
目の前では、龍護とシェリー、心が3人がかりでギリギリの戦いを強いられている。前も、横も、後ろまでも、何処にも死角を見つけられない。たった1本の剣だけで全方向からの攻撃を凌いでいる。
それを観察しながら、私はずっと狙っていた。1発目を外してしまった以上、もう失敗は許されない。
「そろそろ出てきたらどうだ?これでわかっただろ。俺を倒せるのはそこの英雄しかいねぇんだよ」
彗星を自分へと落とし、自らを青い炎の中に閉じ込めたまま、彼が私に剣先を向けた。
「分かりました……もう、みんな下がって貰ってもいいかな。ここからは私の戦いだから」
「おい!さすがに無茶だ!あいつをお前一人に任せ──」
「任せた」
龍護が言い切る前に、1人の少女の声がきっぱりと言い切った。
「けど、1つ約束」
少女は、 私をじっと見つめながら、指を1本立てて前に出した。
「勝って。今度は、私達…だから」
苺ちゃんはそれ以上は何も言わなかった。けど、私にはその先の言葉がまるで声に出して言ったかのように聞こえた。
「分かった。任せて」
だからこそ私は、今からの長い戦いに身を投じられる。だって、これ以上に安心する言葉なんてないんだもん。
「ほお?やっとやる気になってくれたか」
「随分とお待たせさせちゃったみたいで。さぁ、始めましょう」
相手は本気だ。なのに、私が本気を出さないでどうする。それに、もうこの先の相手はわかった。そして、この先に皆崎がいることも。だからこそ全身全霊で戦う。「この先の戦いは私たちに任せて」
そう、苺ちゃんが言ってくれたから。
「彼方なる終焉よ……光差す隙間を塞ぎ、微かな希望すら閉ざし……」
「やる気満々ってか。いいねぇ!そう来なくっちゃ!」
『彗星剣』が吠えた。詠唱終わりを狙っている。それくらいは分かる。だからこそ、私は詠唱することにした。本来しなくてもいい詠唱を。
「敢えて空を隠し……敢えて世界を枯らし……絶望に支配された世界へ、希望となって降り注げ!」
「魔神剣が一振『彗星剣』……この力、受けてみよ!」
迫ってくる。これまでにない速度と鋭さで。でも、私には関係ない。来るなら受けるだけ。そこに鋭さや速さは意味を成さない。
「始伝の魔神剣『夢幻想奏』……ねぇ、あなたには、希望が見えてますか?」
そこに音はなかった。否、必要無かった。2つの魔神剣が交錯し、そして離れた。
「まだそんなもん隠し持ってたのかよ」
「ふふふ……まだ始まったばかりですよ」
「そうだな。一緒に舞おうぜ!あの時のように、どちらかが力尽きるまで!」
「受けて立ちましょう。そこに希望があるのなら」
私は、微かな意識だけで制御していた。少しでも集中を切らすと魂ごと持っていかれてしまう。私は、そんな状況だった。
「せあぁ!」
「はぁ!」
剣と剣がぶつかり合い始めた。
何度も何度もぶつかり合う剣とリンクしているかのように、私の意識の糸が細くなって行く。混濁の中に飲み込まれているかのように。
「ははは!こんな高まりは久しぶりだ!!いいねぇ!もっと楽しもうぜ!」
「はぁ……はぁ…………ダメ……意識が」
視界が徐々に狭まっていく。私の意識は、もうほとんど残っていなかった。あと少しもすれば、完全に魔神剣に支配されてしまう。
「莉音!目を覚まして!負けちゃダメ!」
「こ…………ころ?」
距離を取った一瞬。その一瞬を、私はもう、忘れることは出来ないだろう。
「今の莉音は莉音じゃない!苺が言ったでしょ?勝ってって」
「な……んで?ここ…………ろが?」
「ちゃんとわかってよ!自分に負けちゃダメ!自分を見失っちゃダメ!勝つために自分を犠牲にするのはもっとダメ!」
空間に、心の濡れた叫び声だけが響く。私の心に光が差した気がした。真っ暗で、絶望しかなかった世界に。
「最後に……」
背中から抱きつくようにしている心の顔を、私は初めて見た。そこには、涙に濡れた笑顔があった。
「信じてるよ。だって莉音は、私たちの英雄……なんだから」
世界が晴れていく。なんで、こんなに身近なものを見落としちゃってたんだろう。私を支配しようとしてた魔神剣の気配は、完全に消えている。何も怖くない。皆がいるんだから。
「うん……心、ありがとう。もう大丈夫だから」
私は心の頭を撫でて、敵の方に向き直った。
「ごめん、待たせたね」
「いいや。別に構わねぇよ。だがよ、その分俺を楽しませてくれるんだろうなぁ?」
「期待してくれていいよ。今の私、強いから」
同時に地を蹴る。さっきの数倍、体が軽く感じた。私は強い。だって、大切な仲間が沢山いるんだから!




