第2章 第55話 0.8秒
生徒会室を出た先には、何も無かった。そう、本当に何も無かった。
「あれ?ここってこんな場所だっけ?」
「……結界…じゃない。それより、もっと単調」
あ、そっか。心と苺ちゃんはさっきは生徒会室にいたんだっけ。すっかり忘れてた。カールは昔体験済みだからそこまで驚かないか。
「多分、相手側が仕掛けてきたワープ魔法の1種だろうね。しかも使い手は、かなりの手練と見た」
「まぁ、ある意味全員同時に出たのは正解だったみたいだね。この手の罠は、相手を分散するのが目的で使われるから」
「ねぇ、一つ質問。ここ…もしかして世界線?」
「少し違うかな。ここは多分、並行世界」
私達は、まるで散歩でもしているかのように気軽に話しながら何も無い世界を歩いた。もちろん、私は幻覚魔法の類への警戒は怠らず。
正直、戦いじゃない時ぐらいは気楽〜な感じでいたいもん。いつもいつも気を張ってると疲れるから。
「それにしても静かだね」
「確かにな。まだ、気配すらも感じない」
「いや。いるよ」
なんて、そんな時間も与えてくれないのが戦争だって知ってる。だから私は、やっとボロを出した敵に剣を向けた。
「はぁ!?冗談よせよ莉音。カールは敵じゃないだろ」
「それが本物なら、ね。こいつはカールじゃないよ」
私がそう言うと、カールに化けた何かがくすりと笑ったような気がした。その笑みは不気味で、見るだけで悪寒が走る。
「いつから気づいてた?」
「ここに来て最初、あなたは『使い手は、かなりの手練と見た』って言ったあたりから怪しいとは感じてた」
「なんだよ。いっちゃん最初じゃねぇかよ」
するとそこにいたカールは消え、代わりに痩身で猫背の男が現れた。パッと見の印象は……チャラ男?
「理由は?」
「え?」
「理由だよ理由。どうしてそんな早くわかったのかって理由」
あ、危ない…チャラ男に見える理由を答えそうになった…
「簡単な話です。あなたはわざと、まるで初めて体験したかのような反応をしてました。カールはもうこの手の罠は嫌という程味わってます。つまり、そういうことです」
「あ〜あ。こりゃボスに叱られるな〜。まぁいいや。こいつらを殺してなかったことにすればいいだけだし」
そう言うと、目にも止まらぬ速さで剣を振るった。私はそれをギリギリの所で受け止め、3発の突きを打ち交わし、お互いの薙ぎ払いをぶつけ合って距離を取った。
その間僅か0.8秒───
「へぇ。やるねぇ」
「あなたもね」
死闘はもう既に、始まっていた。




