第2章 第47話 龍護、覚醒す
「残念だったな。お前の相手は俺だ」
猛突進を両手の鎌で跳ね返し、龍護は化け物と化したグリストルに向かってそう言った。莉音はもう既にダンジョンからの脱出に成功しており、後ろには光を失った魔導盤だけが残っていた。
「もう何を言っても理解できないだろうけどな。けど、そのゴキブリのようなしぶとさにはある種の尊敬を覚えるよ」
龍護がそう言っている最中も、馬鹿の一つ覚えのように突進ばかりしてくる。ただ、その速度は相当なもので、喰らえばただじゃすまない。
「ガァァァ!!」
「だからと言って、君のそれは絶対に踏み込んでは行けない領域だ。知性ありし存在からただの獣に落ちぶれたただの負け犬だよ。いや、これはさすがに犬に失礼だな」
軽口を叩きながら化け物の突進を避け続けていた龍護は、一つの問題に気づいた。が、正直どうでもよかったので直ぐに意識の中から消した。
「もう飽きてきたし、こっちも試してみるか。莉音だって出来たんだ。俺にもできるはず……甲虫解放魔術第10の門……」
「ゴギャァァァァァ!!!」
「滅空門……暴走状態!!」
甲虫解放魔術は全部で15の門を持つ呪術の1つで、10の門以降は一般的に暴走状態とされ、自分の力で到達することはほとんど不可能とさえ言われていた。
「さぁ、来いよ化け物。莉音程じゃねぇが、俺も強いぞ」
だか、それを龍護はやってのけた。本来ならば飲み込まれる意識を保ったまま。この技を成せるのは、世界中を探しても龍護ただ1人。莉音の陰に隠れてあまり注目されないが、龍護も世界トップクラスの魔法使いなのだ。
「ゴギャァァァァァ!!ガァァァ!!」
「そろそろその金切り声をやめろ。耳障りだ」
暴走状態の龍護は、人であって人ではない。両腕の鎌は伸縮自在となり、また五感全てが研ぎ澄まされている。そして、魔力量は────
「散れよ。無双刃」
───無限。そして無双刃は、魔力がある限り無限に相手を切り続ける。つまりは、この状態の龍護に勝てるものは莉音のみだということ。
「さて……俺は新しい出口でも探すか」
真っ赤な雨が降り注ぐ中、断末魔すら発せられなくなったグリストルを横目に、龍護は歩き始めた。
もう一度、好きな人と共に戦うために。




