第2章 第46話 龍護の覚悟
微かな心地良さと、『終末日記』を使用したことによる倦怠感の中に私はいた。正直、戦闘終了後の行為全てが無意識だった。
ただ、私にもわかることがあった。少なくとも、今の顔を龍護にだけは見られたくない。こんな真っ赤な顔、見られたらまた羞恥心で死にたくなる。
「お〜い!莉音待ってくれよ」
「だ〜め。それに、龍護なら余裕で追いつけるでしょ?まぁ、通路狭いから追いつくだけになるだろうけどね」
「くっそ〜…いつもそうやって俺達の前を歩き続けて、疲れないの?」
「え?」
不意打ちだった。完全な不意打ちだった。こんな所でそこを追求されるとは思わなかったし、そもそも当たり前のことと思ってやってたから、そんな事を聞かれるなんて夢にも思わなかった。
「『え?』じゃなくてさ。ずっとそうだったじゃん。最初の任務の時も、その後も、戦争の時も……そして今も。ずっとずっと、莉音はどんどん先に行ってしまう。俺達が追いつけないところまで」
私は、龍護の声を背中で感じながら聞いていた。それは嘘偽りのない、龍護の本心だった。それは多分、シェリーも、カールも……今だからこそ、龍護は私に伝えられるんだろうな。
「私はいるよ。ずっと。君たちが手を伸ばせば触れられる場所に」
私は立ち止まり、そう言った。そして振り返り、そっと手を伸ばした。
「そうだな……莉音はいつも、とても遠くて、でも近い場所にいる。だから、クロノア団は今でも一緒に居られるんだな」
「ふふっ。龍護にしてはなかなかロマンチックなこと言うじゃない。ちょっとみ───」
その時だった。後ろから奇怪な音と共に何かが這いずる音がした。それは猛スピードでこちらに迫ってきていて、もう少しで姿が見えるくらいまで来ていた。
「まさか!」
「うん…そのまさかだね。このタイミングで魔力過多による突然変異がグリストルに起こっちゃったみたい」
すぐ後ろには出口らしきポータルがあるけど、多分あの化け物も使える……となると、ここで誰かが食い止めなきゃ…
「ほんと……運が悪いよ」
「まさか莉音!お前また1人で……」
「仕方ないよ。龍護は先……に?」
私が言い終える前に龍護が私の前に立った。そして、あと少しで飛びかかってこようとしている異形の生物を前に、2本の剣を構えた。
「行けよ莉音。ここは俺が食い止めるから」
「でも!それだったらりゅ……え?」
体が浮いてる……なんで?それに視界が青く……まさか!
「龍護!なんでなの!?」
「俺は後で行く。その時まで、またな」
「だめ!龍護!!!ねぇ!まだ間に合うからこ──」
私の言葉は力なく途切れた。目の前が青く染まり、私は意識を失った。直前に見た、龍護の覚悟を決めた顔を、瞼に焼付けながら……




