第2章 第45話 決着
「これが『終末日記』……初めて使うけどこんなに心地いいんだ」
水色の光を身に纏い、まるで妖精のような姿で莉音が現れた。その姿を一言で表現するとしたら、魔力の具現化。それほどまでに莉音の魔力は桁違いだった。
「せあぁ!」
「ごめんね。今の私、結構強いんだ」
グリストルの剣が莉音を斬った───
「ねぇ……君は勇気がある。けど、今のはちょっと蛮勇だよ」
───かのように見えた。地面に落ちた腕はまだ斬られたことにすら気づいておらず、指がまだ動いていた。
「え?ぐ……うわぁぁぁぁ!!!腕が!腕がぁぁ!!」
「ほらね?蛮勇だったでしょ?」
刹那、噴水のように血を吹き出す右肩を押さえたグリストルの絶叫が、空間に木霊した。その声はまるで人ならざる者のそれで、一種の呪いのようなものに感じられた。
「自分が強いと思うのもいい。自分が特別な存在だと思うことに間違いは無い。けどね……戦士として、1番悲しいことだけはしてはいけないよ。君には、逃げるという選択肢もあったんだから」
莉音は、うずくまっているグリストルに優しく語りかける。聞こえているのかは分からないけど、グリストルの絶叫はもう止まっていた。
「私が君にとって絶対に討たなければいけない存在なら、逃げないことも蛮勇だけど尊敬に値するよ。でも、君は違うでしょ?すぐ目の前にある“未来”を見失うのは、生きている者として死んでいるも同然なの」
君はもう手遅れだけどね。莉音はその後声に出さずにそう言った。その時、グリストルが左腕を伸ばし、近くに落ちていた剣を拾った。
「うがぁぁぁ!ヴァァァァァ!!!」
「だから、もう君は手遅れなの。2度も言わせないで」
2本目の腕と、両足が彼の身体から離れた。支えを失ったグリストルの体は、虚しく地面に落ちた。
「ごめんね。本当は救ってあげたかったんだけど、今の君には何を言っても無駄な気がするの」
最後、莉音はそう言って彼の首に剣を添え、そっと横に動かした。
もう、グリストルは動かなくなっていた。
「あはは……龍護、ちょっと怖かった?」
「いや。超次元すぎて入っていけなかっただけだ。やっぱり、お前はすげぇな」
「ありがとう龍護……それだけで私は救われるよ」
「それでさ、戦士として1番悲しいことってなんなんだ?」
龍護が元の姿に戻った莉音にそう言った。それは単なる興味で、それ以上でも以下でもなかった。
「そうだね。龍護には教えておこうかな。あのね、戦士として、1番悲しいことは……」
莉音はそこで言葉を切り、そっと龍護に近づいて頬に少しだけ口付けした。
「相手の実力を測り損ねることだよ」
龍護は少しの間何が起こったのか分からなかったが、直後に顔を真っ赤にして先を歩いていた莉音を追いかけた。その構図はまるで、これからの2人を暗示しているようだった。




