第2章 第43話 大魔王近衛隊五賢帝
「誰?」
突如として目の前に現れた敵に、警戒心全開でそう聞いた。全身を真っ黒のローブで覆い、暗いせいであまり顔を確認できない。声色も男とも女とも取れる。
「そうですねぇ。私は大魔王近衛隊五賢帝が1人、グリストル・サブマリン……なのでしょうか?」
「知るかぁ!」
すてーんって音がなりそうなくらいずっこけたよ。ものすごいくらい肩の力抜けたよ。というか体全体の力抜けたよ。
「いやぁ、流石に私も長いですから。名前くらい忘れることもありますよ。ええ」
そ、それでいいのだろうか……それにしても、相手から攻めてくる気配がない。こちらを警戒している感じはないし、周りに仲間がいるという感じでもない。
「それでぇ?あなたたちはどんなご要件で?」
「えっと……実は出口を探してて、どこにあるのか分からなくてさまよってるんです」
偽る必要もないだろう。私は、油断だけはせずにそう口にした。でもさすがに、次の相手の行動は予想できなかったが……
「そうですかぁ。それでは───」
刹那、猛スピードで迫ってきた剣を紙一重で躱した。不意打ちとしては完璧なタイミング。圧倒的殺意のこもった剣は、私の胸横わずか数ミリの所を通過し、後ろの壁付近で止まった。
「死んでください。あなた達をここから出す訳には行きません」
それまでのお調子者のような口調とはうって変わり、機械的で無感情な言葉に変わっていた。恐らく、これが彼の本来の姿なのだろう。
「生憎と、私達はまだ死ぬわけにはいかないの。戦うなら、どうなっても知らないよ」
「おいお前正気か!?さっきのあいつの自己紹介忘れたわけじゃないだろ!?」
「大魔王近衛隊五賢帝でしょ?5人まとめてなら負ける可能性あるけど、1人なら大したことないよ。それに、昔殺したもん。大魔王」
その言葉により一層戦闘意識を刺激されたのか、グリストルの魔力値が急上昇した。
そう言えば、ここって大昔の高濃度の魔力が漂ってるんだよね。じゃあ、ここの魔力を吸収したら聖域でしか使えない魔法が使えるようになるかも。
「よし、行くよ龍護!」
「いいけど……何か策でもあるのか?」
「試したいことがあるだけ。それに成功したら一瞬で勝負を決めれるよ!」
薄暗い空間に3つの剣がかすかな光を生む。それが1つの死闘の、はじまりの合図となるのだった。




