第2章 第41話 最期の祈り(後編)
たくさんの人が死んだ!たくさんの資源が消えた!たくさんの自然が死んだ!争いによって得られるものなどない!失うものだけがたくさん、たくさんある!
じゃが、それを知らない愚か者共はそれを辞めようとはせん。苦しかった。だから、ワシは今この場所に戻ってきた。
それにな、憎しみは憎しみしか生まん。人間が人間を産むのと同じようにな。感情もちゃんと生きとるんじゃ。怒りも、喜びも、悲しみも、楽しさも……
復讐なんてもっての外じゃ。復讐成功して感謝されるか?されないじゃろ。復讐して何をされるかは1つじゃ。結局、復讐なんて無限の連鎖なのじゃ。自分しか見えとらん者達の、悲しいいたちごっこ。
ワシが見たのは、戦争の最中たった一人で血にまみれた独りの少女じゃ。数百人数千人で押し寄せてきた敵を一網打尽にし、降り注ぐ大量の血の雨に濡れながらひたすらに戦っておった……
その時ワシはひとつ疑問に思った。どうして1人なのか、と。その答えは少し考えたら思いついたが……じゃが、合っているかはわからん。
ワシの仮説はこうじゃ。
「全ての憎しみ、怒りを受け止めるため」
何故かはわからん。だが、こうなのではないか。と思ってしまった。それほどまでに、かの少女は美しかった。変な話だとは思わないか?さっきまで散々争いは許せないと怒っていた人間が、手のひら返しのようにここまで肯定的なのは。
でもな、これは本当の気持ちなんじゃ。本音は矛盾してる。けど、その矛盾こそが本心なのだと思うのじゃ。だからこそ、主らには自分を捨てないで欲しい。これは今生きている全ての生命に言えることだ。命を賭けるのはバカがすることじゃ。
・・・
長い、話が終わった。私は、右目から一筋落ちた涙を拭った。これは、話ではなかった。
祈りだった。世界の始まりからずっと世界を見守っていた人の、最期の祈り。私は、そう感じた。
「それで……じゃ。お主……君じゃったのか」
「……え?」
「あの少女は、君だ。だから、ワシはこうやってひとつの歴史を終わらせられる」
「ちょ、ちょっと?!」
小さな世界の中、1人の少年が光に包まれ始めた。まるでこの時を待っていたのかのような、純粋な笑顔で。
「ありがとう。最期に君達に会えて本当によかった」
「私もです!あなたのような素敵な人に出会えて嬉しいです」
「どうか……君たちは幸せに……」
私は、このダンジョンが生きていた理由を知った。どうして、1度捕まえると帰さなかったのかもも。
伝えたかったんだ。だから、ずっとここで待ってた。私を。名前も知らない、話したことも無い私を。
笑っていた少年は、光の粒子となって消える瞬間、声だけを少しこの世界に残して行った。
『ありがとう。君に幸あらんことを』
最期の祈りは、ちゃんと届いたよ。君の願い、私も似たようなものだから。だから安心して。私は、英雄なんだから。




