第2章 第36話 ダンジョン
気がつくと、そこは薄暗い空間だった。そこまで広いわけでもなく、だからといって狭くはない。少なくとも教室1つ分くらいの大きさはある。
「……来ちゃったね」
「あぁ。ここが俺たちの死地となるか。基地となるか」
「お、珍しくうまい事言ったね」
「だろ?」
談笑出来るのは多分今くらいだろうな〜。確か、このダンジョンって危険度MAXだったはず。ここを動いたとしても動かなかったとしても戦闘が始まった瞬間から敵を全滅させられるまで戦い続けなければいけない。じゃないと死ぬ。
「それで莉音、敵の気配はある?」
「今のところ半径10メートル以内には無いよ。そう言えば、龍護ってダンジョンは初めてなんだっけ?」
「おうよ。だから今の心境としては遠足前の子供みたいなもんよ」
なんほど、言いたいことはわかったけどそんな余裕無いんだよね。私は大丈夫だと思うけど……いや、私もちょっと危ないかも。右腕、まだ動かせないし。
「そう。怖気付いてるよりは頼もしいね 」
「な、なんだよその言い方。ちょっと怖ぇぞ?」
「ふふっ。右側は任せたよ」
「あぁ。任された」
私と龍護はお互いの拳をぶつけた。多分、私が背中を任せられるのって、今のところ龍護ぐらいだと思う。その理由は多分、実力よりも気持ち、かな?
「それにしても、お前利き手どっちだっけ?」
「え?両方」
「だよな〜。けど、主に右じゃなかったか?」
「そうだね。なんでかって言うと、師匠が右利きだったから。私自身は本当は左利きだったんだけどね」
「まじかよ。それじゃあ今の状態は?」
今か……左手だけのこの状態がやりやすいかってこと?う〜ん、どうなんだろ。少なくともいつもよりはやりずらい。
「微妙。正直、左手で剣を振るうなんて二刀流してる時以外無いし」
「そっか。でも、今なんとなく、左手の方が重みがある理由がわかったよ」
左手の方が重い?どういうことだろう。戦う時も、訓練の時も基本的に右だったし……あれ?そう言えば、師匠ご何か言ってたような……まぁいっか。多分、そのうち分かるでしょ。
「それに、お前2本持ってるだろ?」
「え?なんのこと?」
「魔剣だよ。2本目はあまり見た事ねぇけど、たまに使ってるだろ?まぁ、それ以上持ってるとか言い始めたらお手上げに近いけどな」
知ってたんだ。私が持ってる魔剣が1本じゃないこと。けど……けどね、龍護。本当は1本なんだよ。よく分からないかもしれないから、また今度、ちゃんと教えるね。
「そろそろ敵が出てきてもおかしくない頃合いじゃないのか?」
「え?……あ、確かにね。けど、これ正直予想当たっちゃってるね」
全く敵の気配が無い道を話しながら歩いていると、龍護が唐突にそんなことを言った。私はもう、自分が立てていた予想……と言うより仮説が正しいことを認めざるを得なかった。
「ほんと、物凄く悪い予想が……」
「はぁ?それってどういう……」
「ここ、ダメ。早く抜け出す方法を考えないと!」
そう。ここには生物は存在しない。生きたダンジョンが半永久的に道を作り続けているだけ。だから、食料もなければ水もなく、出口すらなければ生きる希望もない。そんなダンジョン。それがここだったのだ。




