第2章 第26話 乖離呪文
カール、苺ちゃん、心を生徒会室に残し、私たち3人は地獄と化した学園へと足を踏み入れた。
「……こんな場所、知らない」
「あぁ。さっきまでとは違いすぎて逆に面白そうだぜ」
「ちょっと龍護〜?あんたそうやってすぐ死にかけるんだから、ちゃんと自重してよね」
「わ、わかってるっての!」
多分、これは一種の魔法だ。結界魔法に近い雰囲気を感じる。あ……違うわこれ。
「くそ……やっぱり」
「どうしたの〜?やっぱりって」
「ハメられたね。しかもとんでもない大物に。とりあえず来るよ。右斜め上47度くらいから突進してきてる」
空が灰色に染まり、周りの草木がすべて枯れ、地面を白い灰がおおっている世界で、かなりの生体反応を感じた。多分、その人達全員を倒さないとここからは逃げられないってことね。
「おっけー。じゃあ手始めに……機獣操作魔法 人形舞踏!行ってらっしゃい!私の部下達」
数十体もの魔法機獣が、私の指定した場所に向かって発砲した。これでいくらかのダメージが入れば儲けもんだな。
「それで、次の相手は誰なの?」
「名前までは忘れたけど、昔1回やりあったことあるよ。たしか、紅き閃光とか言ったかな」
「あ〜……なるほどあの子ね。なかなかに珍しい魔法使ってなかったかしら?」
「紅き閃光って、あれだろ。鳳凰魔法使いの花暦 夢だろ?流石に覚えとけよ」
そんなことをのんきに話していると、目の前に炎を纏った少女が飛び下りてきた。
「さすがに奇襲成功させてくれないか〜。相変わらずっすね3人とも」
その少女は人懐っこい笑みを浮かべながら、燃え盛る炎の中で言う。
「あんたがいるってことは、これは白夜連盟からの差し入れなのかな?」
「まぁそんな感じっす。にしても莉音は相変わらずちっちゃいっすね!前まで同じくらいだったのが嘘みたいっす」
白夜連盟というのは、かつて終末戦争時にクロノア団と共に前線で奮戦した同盟で、昔から何度も手合わせをしている間柄だ。だからこそ、この子の戦い方は知っている。
「いや〜、ほんとに隙無いっすね!疲れたんでそろそろ帰りたいんすけど!」
奇襲と不意打ちの名手。普通に会話していただけなのに気が付いたら致命傷を受け、返り血を浴びた小さな少女によって消し炭にされる。だからこそ紅き閃光という名が付けられた。
「まともに戦いに来てくれたらすぐ終わるよ」
「またまた〜。それじゃあ帰れないでしょ?面白いご冗談を」
さすがにこのままじゃ泥仕合か……でもな〜。相手も相手で常に警戒してるし、下手に動いたら右腕持っていかれかねないし……あ、そうだ。
「大丈夫。君の強さは知ってる。閃光が如き攻撃、その技術……全て尊敬に値するもの」
「いやいや、褒めても何も出ないっすよ?」
「だからこそ今歌ってる。とても大切な歌を」
「懐かしいっすね、また歌魔法でも使うんすか?」
「乖離呪文第4文 マルティナ」
目の前に生成された闇が世界を飲み込まんと膨張し始める。その速度はあまりに早く、夢が反応した時には既に飲み込まれていた。この呪文は、不意打ちに使うには便利すぎる。
「よし、今だ!」
私は左手に剣を構え、闇の中に飛び込んだ。この呪文は術者には全く影響を及ぼさない、いわゆる妨害呪文で、食らった相手は徐々に体の感覚を失っていく。
「龍護、シェリー。二人とも大丈夫だよ」
そう言って2人に闇を通させ、最後に中にいる夢に一言言った。
「またね」
一筋の剣戟が闇を払う。そして、体を完全に漆黒に支配された夢だけが、そこに残っていた。




