第2章 第17話 人間じゃない
「し、始祖……呪文…!?」
「ねぇ苺。それってそんなに凄いものなの?」
「すごいも何も、字に書いた通り。始まりの呪文……本来なら、妖精しか使えない……」
苺は、今自分の目の前で起こっていることが信じられなかった。何も知らない人からしたら、ただの呪文のようだけど、そうじゃない人は違った。
「ん?それってつまりどういうこと?」
「本当なら、ありえないこと……ううん。あってはいけないこと……なんで?始祖呪文は、もう滅んだんじゃ…」
「いんや。そうでも無いんだよね。実際」
後ろから声をかけられて2人が武器を構える。
「おぉっと!?俺に戦う気はないから!頼むから武器しまって!」
「えっと……誰だっけ?」
「心、忘れるの早すぎ……龍護。あなたがおもちゃにしたがってた」
「あ〜!思い出した!それで、そんなおもちゃがなんの用?」
「おもちゃって呼ぶな!用事っちゃ用事だけど、そんな大それた事じゃねぇよ。旧友同士の戦いの結末を知りたい。これじゃ不充分か?」
龍護の目に敵意は全くなく、2人が戦っているであろう場所を心配そうに見つめていた。
「……始祖呪文」
「あ?」
「始祖呪文……なんで莉音が使えるの?」
苺は冷静だった。今聞かなければ龍護は答えないと思った苺は、単刀直入に本題を出した。
「なんで使えるか……ね。う〜ん……これを信じるかどうかは君次第だが、俺が今わかってる限りで本当のことだけ言うわ」
龍護は苺の目を見た。もし軽い気持ちで聞いてきているのなら、そこそこの答えにするために。だが、それは杞憂だった。
「莉音はただの人間じゃない。生まれた時から、あいつは1人でずっと戦ってる」
「……その戦いの中で、始祖呪文を覚えた……と?」
「正確なことはわからん。が、俺が思っていることは、ちと違うかな」
「違う?どういうこと?」
「……これはあいつの親父を知ってるから言えることなんだが…おそらく、俺達と出会うまでの間、あいつは妖精に育てられていた……理由まではさすがにわからないけど」
龍護が明かした事実に、苺は何も反応できなかった。というより、実感がわかなかった。人間が狼に育てられた例はあるが、妖精に育てられるなんて異例にも程があった。例えるなら、ライフルで近接戦闘をするようなものだ。
「そう……なんだ…だから、莉音は莉音なんだ」
「どうしたよ。そんなに哲学的になっちゃって」
「納得した。なんとなく、私の中で落ち着けた」
目の前では、張り裂けんばかりに膨張した光が少しずつ小さくなっていた。もう終わったのだろうか?苺はそう思った。
それが間違いだったことに、あと少しでも気づくのが遅れていたらどうなっていたかわからない。
「……あ!結界魔法第8の門 吸光壁!」
「おっと嬢ちゃん、それはグッジョブだ」
「危なかった。多分、そろそろ……」
苺の予想通り、半径1m程まで小さくなった光が、突如鋭い奔流となって襲い掛かって来た。おそらく、人間のみに影響を与えるものであろう。
「それにしても、あんたも始祖呪文に負けず劣らずの珍しい魔法使うんだな。結界魔法なんて、伝説もいいとこだ」
「……私も、私の事情がある」
収まった光の奔流の先、そこに、人間の姿に戻った状態で倒れたカールと、右腕が黒く変色してしまって苦しそうに膝をついている莉音がいた。




