第2章 第16話 妖精の呪文
「ねぇ莉音。なんでこんなに急いでるの?」
「それを今聞く?」
階段をかけ昇っている途中、心が私に聞いてきた。別に今じゃなくてもいいだろうに……
「……次の相手も、私だけで戦わせて。理由は、私以外じゃ、誰も彼を救えないから……」
「救う?どういうこと?」
「あとは自分の目で確かめること。そろそろ始まるよ」
2階の廊下に身を晒した瞬間に始まる。実を言うと、私でも救えるかどうかわからない。でも、これだけは宣言する!
絶対にカールは死なせない!
「ゴガァァァァ!!」
「わかってるよ。君が今苦しんでいること」
大きな金属音とともに謎の巨体の動きが止まった。謎の巨体は、全身に鱗を纏い、口は龍を思わせるもので右手は肥大化し爪は鋭い斧のようになっている。
「ねぇカール……聞こえていないかもしれないけど、私は君のことを大切に思ってる。それも、この上なく」
私の言葉に答えるのは異形の存在の鳴き声のみ。昔の優しい彼の姿は見る影もない。でも、私は続けるよ。これ後私に出来る最善だから。
「ねぇ、また一緒にお話しようよ。星を眺めながら、さ……」
迫り来る爪と牙を剣で弾きながら、語りかけ続ける。暴走の止め方は2つ。暴走沈静の儀を行うか、精神に語りかけ続けるか。龍護の時は出来たけど、この状態のカールには無理だ。ミンチにされる。
「私ね、君に貰った力、大切に取ってあるよ。それにね、ちゃんと約束守るよ。だから、安心してね」
カールがバランスを崩したタイミングで一気に距離を開けた。
「……第18聖剣に名を刻み」
カールは今体が大きくなったせいか、崩したバランスが中々戻せないみたい……だからちょうどいいんだ。技を成功させるにはこのタイミングしかない。
「来たる最期の時」
2階に新たにふたりの気配が増えた感じがした。多分、あの二人だろう。そりゃ気になるよね。仲間なんだし。
「地を穿ち天を裂き」
大丈夫。私ならできる。あと少しだから、待っててね、カール!
「理としてこの地に君臨せん!」
やっと体制を立て直したカールがすぐ目の前に迫っていた。けど、むしろその方がいい。我ながら完璧なタイミング。
「始祖呪術第5の書……浄化妖精舞踏!」
これで、良かったんだよね?カール……




