第2章 第14話 桜崎流
「私は先を急いでるの。そこをどいてもらえない?なんて言って退くような野蛮はいないか……」
腰から抜いた剣を中段で構えながら、私は目の前の相手の隙をうかがう。
「あらあら。私はあなたとゆっくり殺し合いがしたいだけなのに……反抗期かしら」
「お前に反抗する理由はない。それに、ゆっくりしてる時間も……無い!」
私は10メートルほどの距離を一瞬で詰め、心臓を狙った突きをくり出す。不意を着いた一撃。のはずだった。
「あらあら〜。不意打ちなんて。やっぱ野蛮ね」
「……さすがにあなたも成長してますね」
「当たり前よ。舐めないでよ。髪の毛の色が白いまま私に不意打ちを喰らわせられるとでも?」
前は普通にこれで気絶くらいまでは行けたのに……龍護の時も感じたけど、この人たちはちゃんと成長してる。私と違って、確実に、そして飛躍的に。
「侮ってたってのは否定しないよ。でも、なるべく消耗せずに行きたいのよ。この先に、いるんでしょ?あいつが」
「ほんと、昔からあなたは勘が強いのよ。だから龍護にはもうちょっと頑張って欲しかったんだけど……こればっかりは仕方ないわね。でも、私なら大丈夫。あと数十分くらいなら食い止められる」
「舐められたものね。魔剣を使わないだろうからって油断してるの?」
敢えて挑発的な言い方をしたが、さすがにこの程度じゃ動じてくれないか。まぁ、そうじゃなきゃ面白くないって感じだけど。
「まさか。油断どころか隙を見せるつもりすらないよ。それに、私の剣の力、忘れたなんて言わせないわよ」
忘れるわけがない。その剣こそ、彼女の本命。ロボット操縦術に長けてはいるものの、それはただの付属。剣の能力と美しい剣技で戦うことから、とある2つ名で呼ばれることが多い。そのせいで本名は忘れたけど、2つ名の方ははっきりと覚えてる。
『不可侵の剣舞』
「さぁ、共に舞いましょう」
「……仕方ない、か……」
これは覚悟を決めるしかないかもしれない。本当は次に戦うであろう敵に取っておきたかったが、『不可侵の剣舞』相手には使うしかなさそう。次の敵こそは全員で戦う。けど、今は私一人で十分だよ。
「剣をしまった?!莉音は何を考えてるの?」
「確か、桜崎…って、剣技的魔法の流派のひとつ…多分、今からは魔法剣を使うんだと、思う」
2人の声がかすかに聞こえる……ダメだ。もっと深く。もっと深く……誰にもたどり着けない場所まで……
「いつまで突っ立ってるの?何もしないならこちらから……」
「夢幻想造伝……第5の剣 氷焔二刀」
我慢の限界だったのだろう、防御を半分捨てた攻撃を仕掛けてきた。ありがとう。狙い通り動いてくれて。おかげで1発で仕留められる。
「はァァァァ!!!」
『不可侵の剣舞』が吠えた。強く重い気迫の篭もった剣は、上段に構えられたままだ。周りから見たら確実に振り下ろされた。それどころか、莉音が切られたとすら錯覚してしまうだろう。
「……ねぇ、あなたは、どんな気持ちなの?」
私は、背中側に向けて声を掛ける。両手の手首を切ると同時に止血したから、死ぬなんてことは無いはず。あ、忘れてた。技名を言うのは大切だよね。
「桜崎流二刀魔法剣術剣の型 辻」
『不可侵の剣舞』の敗北は決まってたんだよ。いつからって?私と出会ってから。




