第2章 第8話 戦争生存者同士
「大蟷螂の、龍護?」
心は、どこかで聞いたことあるような…と言いながら考え込んでいる。いや、少なくとも聞いたことくらいはあるでしょ。一応、戦争生存者なんだから。
「久しぶりに会った元戦友にいきなり斬り掛かるほど俺も腐っちゃいねぇ。けどな、ひとつ言わせろ。なんで玲奈なんかに負けた?」
「いや、あれは負けじゃないよ。何を勘違いしているのか知らないけど、私は私なりの最善を尽くしてる。何度も言ったでしょ。時には傷つけられることが勝利に繋がると」
「あぁ。耳にタコができるくらい聞かされたぜ。けどな!俺の考えはずっと昔から変わっちゃいねぇんだよ!!」
視界から龍護が消える。さて、久しぶりに遊んであげようかな。
「あれ?いない?」
「2人とも離れて。ここからは私の戦いだよ!」
正直、いきなり龍護とやり合うのは大誤算だった。実力的には将とほぼ同等とも言える。ただし、両手を形状変化させた鎌の攻撃範囲に入った場合、下手したら玲奈ですら押し負ける。たとえ僅かだけでもだ。
「良いのかい?俺が2人の方を狙わないとも限らないのに」
「したいならすればいいさ。格好の餌食にしてあげるよ」
「おいおい、冗談に決まってるだろう?むしろ1対1にしてくれてラッキーってもんだよ!!」
ガキィィン!という甲高い金属音を轟かせながら空中で鎌と剣が交錯する。
「腕を上げたね、龍護」
「そっちこそ、前より余計強くなってないか?」
お互いに、それが最後の声によるコミュニケーションだった。それからは、剣で語る戦いが始まった。
・・・
「すごい……」
気づいたら、心の口からそんな言葉が漏れていた。鳴り止まない金属音。幾度となく飛ぶ火花が、その戦いの激しさを物語っていた。
「これが、戦争生存者同士の、戦いなの?」
「うん。私には、懐かしい光景。心は、初めて?」
「そうだね。こういうの見せつけられると、やっぱり思っちゃうよね」
ガキィィン!!
今度はさっきまでよりも一段と甲高い金属音。そして、2人が開始地点に戻るように距離を取った。
「やっぱり、莉音には敵わないって」
水色の髪の毛をたなびかせながら、余裕の表情で剣を構え直す莉音を見て、心はそう言った。自分に言い聞かせるように。そして、ボロボロになった相手を労わるように……




