第2章 第3話 スタートライン
やっと動くようになった体にむち打ち、魔力循環の速度を上げにかかった。
「え?あれ?」
「ちょ、ちょっと大丈夫!?さすがにまだ無理はしないで。いくら肉体的外傷じゃ死なないからって、心臓貫かれてたらしばらくは無理だよ」
「で……でも……」
「でもじゃない。とりあえず生徒会室は安全だから、そこに行こう。そんな状態で戦っても負けるだけだし」
よろけた私を支えるように心が抱えてくれた。そこまでしてもらわなくてもいいのに……でも、体が動かないからいいや。
「おや?逃げるのかい?」
「一時休戦。先生も、弱ってる女の子いたぶるのは趣味じゃないでしょう?」
「そうだね。でも、奇襲だけは警戒しといてね」
それだけ残し、また同じ場所に消えていった。多分、私のと同じだろう。でも、こっちの方が深いね。
「言われなくても警戒します〜だ!よし!苺、莉音!生徒会室まで走るよ!」
「心、張り切りすぎ。リラックス、大事」
3人で笑いながら生徒会室に向かう。まるで夏祭り前の子供のように。
・・・
「お前はどうしたい?」
将は、ずっと放心状態の玲奈に向けて言った。答えは無かった。血に染まってしまった剣を力なく垂らしたまま、目を見開いて虚空を見ている。
「聞こえているていで言う。莉音は、ある決意を固めてお前の剣を防がなかった。玲奈、君には見えなかったのか?それとも、君はその程度だったのか?」
将は本当の意味で怒っていた。どうしてか。自分が何も出来なかったからだ。将には見えていたのだ。防ごうと構えていた剣を下ろした莉音が。
「確かに、俺が止めに入ろうと思えば入れた。でも動けなかった」
玲奈と将は幼なじみだった。幼なじみだからこそ、あくまで一線を置いていた。でも、将も男だ。踏み込むべき時に踏み込まないのは、プライドが許さない。
「だからこそ言おう。玲奈、君は今からどうしたい?」
光のない目から、一筋の涙が零れた。
「…………ま……さる?」
「よし、やっとスタートラインだな」
将は笑う。わずかな希望をより光らせるために、昔みたいに。




