最終章 第101話 仲間を胸に抱き
「……だいぶ、減ってきたかな。もう、わかんなくなってきた」
莉音は、周りを見回しながら立ち止まった。その瞬間、大きな脱力感が莉音の全身を包み込んだ。莉音が1人になってから3日間ぶっ通しで戦い続け、戦場にいた敵の数が残り1億人を下回り始めていたが、莉音にとってこれは完全に過剰なペースであった。その影響が、少しずつ体を蝕み始めていたのだが、この瞬間にそれが発現し始めた。
魔力自体は無限にどこかから供給されているため、原因は魔力消失ではない。原因は、「仲間の喪失」だった。
「1人で戦うこと……慣れてたつもりだったんだけどな~……思えば、心のどこかに『生きている仲間がいる』って気持ちがあったんだね。もう今は……」
誰もいない。そう言おうとしたときに、自分の宝物を渡した相手を思い出した。それと同時に、自分を慕ってくれていた人も。自分が勝ちきることを信じて待ってくれている多くの人たちも。
「あはは……そうだね。私には、たくさんの仲間がいる。例えここにいなくても」
莉音は今にも倒れてしまいそうなほどに震えている足を何度か叩き、深呼吸を繰り返し行うことで冷静さを取り戻した。まだ、乗り越えられたわけではない。だが、一時的でも立ち直ることが出来たことは、莉音の強さの現れだった。
そしてまた、莉音は駆け出した。敵の数は、最初に比べればかなり少なくなっている。戦場のほとんどが死体で埋め尽くされ、莉音のように空中を移動しながら戦わない限り戦いにくいような場所に変わり果てていた。神域魔法の能力を用いて魔力化して吸収することも出来るが、それは相手が戦いやすくなっていしまう上に、今の莉音にはほとんど意味が無かったため今は行っていなかった。
「あと少し。これを越えて、あいつを絶対に殺しきる。このまま行けば、間に合うはず」
敵軍の敵意は残っていたが、全員がどうやって裏をかこうかと隠れきってしまっていた。この場所には地下シェルターや地下拠点が多く点在しているため、そこに隠れていることは莉音から見ても明らかだった。
「このままだときりが無い……か」
莉音は魔力探知で敵の位置を把握し、丁度真ん中の地面にひざまずき、手をかざして詠唱を始めた。
「大地よ……我が命に応えよ。魔をもって地を揺らし、力をもって世界を反転させよ――禁忌魔導書第12項神焉魔法……天変地異」
詠唱完了と共に、地面が10メートルほどせり上がり、その中にいた敵全てを巻き込みながら爆発し、地面に叩きつけた後岩石や砂をその上に降り注がせた。場所によっては灼熱の水や酸性の水が湧き上がり、1人残らず巻き込んで地に還った。
この魔法は、範囲に限界があり、使用者以外全てを巻き込むうえに反動で数分から10分ほど動けなくなってしまうため、今の今まで使えなかった魔法。この一撃で残った敵を巻き込めなければ、動けない間に殺されてしまうような、捨て身の一撃でもあった。
しかし、莉音はしっかりと決めきった。莉音以外の生命反応がも消え去った戦場で、30分かけてようやく動けるようになった莉音が立ち上がった。残った敵は、司令部だけとなっていた。
 




