最終章 第97話 心の最期
「心……!」
日が沈み始め、もうそろそろ心を迎えに行こうと考えていた莉音は、大きな魔力の波を受けて嫌な予感が全身を駆け巡った。
莉音はその予感に任せて魔力の波の中心に向かって走り出した。
莉音の嫌な予感は、ある意味では正しく、ある意味では間違っていた。
「心!」
「え?あ……り、おん……」
「なんで……どうして?」
心は、地面にうつ伏せになった状態で体中から血を流しながら倒れていた。刺さっていた武器は心の力の波によって消滅していたが、そのせいで余計血が出ているようにも見えていた。
莉音は心の近くに急いで座り込み、蘇生魔法による回復を行い始めた。
「どうして……また戻ってくるって。その時に話し合おうって……」
「あはは……間に……合わなかった…………みたい」
「間に合わな、かったって……でも、どうして?今日の朝はまだ……」
「あはは……気付いて……無かったんだね…………あの時私……死んでたんだよ」
「え……」
蘇生魔法を行えば行うほど、出血量が増えていくのを見て莉音の蘇生魔法の光が少しずつ弱まり始めた。
「ねぇ……莉音…………上、向かせて?」
「……わかった」
莉音は溢れ出そうになる涙を堪えながら、ゆっくりと心を仰向けにし、膝枕のような形で血まみれの心の口元を優しく拭った。莉音と目が合った心は、幸せそうな笑みを浮かべながらゆっくりと話そうと思っていたことを吐き出した。
どうしてあんなことを言ってしまったのか、どうしてこうまでして一人で戦い続けたのか、そして、どうしてもう助からないのか。
「……本当は、最後まで……戦いたかった……もっと……莉音の隣にいたかった……」
「うん……うん……!」
「ごめんね……莉音…………私……」
「謝らなくてもいいよ……私も、心のこと考えずに無茶させちゃってて……」
「ううん…………大丈夫、だよ……あと、最後にさ……」
ゆっくりと右手を上げ、心は莉音の髪の毛に触れた直後、声にならない言葉を告げてから手が力なく地面に落ちた。
「……心……私も、ありがとう……また、会おうね」
莉音は心の亡骸をゆっくりと地面に下ろし、苺の時と同じように心の体を魔力の粒子に変え、自分の胸の中に入れてから血だまりの中で立ち上がった。心が最後の力を使って広範囲の敵を殺したことで、莉音が気持ちを落ち着かせる時間が出来た。
「もう、1人になっちゃったな……」
莉音の体が水色の魔力と金色の魔力、そして黒色の魔力に包まれた。
しばらく3つの色からなる魔力の蕾の中にいた莉音が、その蕾を突き破って少し空中に浮いてからゆっくりと地面に降り立った。水色と金色の中に黒色が混じった髪の毛に、水色と金色の目をした莉音が、その場所に立っていた。




