最終章 第92話 夜の戦いを
敵を殲滅するという点において、莉音よりも心の能力の方が向いていたのだが、経験値の差からかほとんど同じ速度になっていた。
魔法攻撃に関しては、心も莉音と同じような無効化能力を獲得しているためただ仲間討ちをさせているだけになっていた。相手は、さっきまでの連携の取れた戦いを行うことが出来なくなっており、そこにいる軍人達がただの烏合の衆に成り果てていた。
「こっちだこっち!こっちに援軍を!」
「こっちの方が被害がでけぇんだまずはこっちに援軍だろ!」
「おい!魔法部隊はどうなっている!どうして攻撃を中断しないんだ!」
「おいお前らこんな時に喧嘩はやめろよ!今はそんなことしてる場合じゃねぇだろ!ちゃっちゃと協力して殺そうぜ」
「簡単に言うなよお前……そんなんで殺せるならもうとっくに殺せてる」
「青薔薇とやらが厄介なのは聞いていたが、もう一人もここまでやるなんて聞いてなかったぞ」
色んな場所で湧き上がっている敵軍の言い合いが、莉音と心が殺した人によって生み出される悲鳴と断末魔によって遠くまで届かない状態になっていた。
莉音は常に心の様子を魔力で監視しつつ戦っていたが、心はのびのびと戦っている様子で、現状で心配するべき要素はないように感じていた。むしろ、魔剣と共鳴してからすぐにここまで使いこなせるのは、心の地力がかなり高い証拠だった。
敵の数は加速度的に減り続けており、日が沈み始める頃には血潮と灰燼で溢れ始めていた。
「……ふぅ…………心!」
「ん?何!」
「ちょっと集合」
「え?うん、わかった」
莉音の、魔力を使った交信を受けて心は莉音に指定された場所、2人が戦っていた場所の中心部分に集まった。
「よし、そっちも順調そうだね」
「うん。今のところね。でも、なんで急に?」
「あ、そうそう。もう日が沈んで暗くなるから、夜の戦い方に切り替えようかなって思ってさ」
「夜の戦いって……でも、莉音が近くにいたら電灯みたいになってくれそうだから助かるかも」
「いや……そういう問題じゃなくて……でも確かにこのままじゃ目立つよね。よし」
莉音が合掌して目を閉じ、ゆっくりと力を溜め始めた。莉音の周りに金色の魔力が漂い始め、その魔力が少しずつ黒色に染まり始め、それに伴い髪の毛の色も真っ黒に染まっていった。その黒はただの黒髪の色ではなく、宇宙のような、そこに何もないかのような黒色だった。
「これでよし」
「えっと……?」
「あはは。ちょっとした形態変化だよ。多分心も出来るよ。さっき炎しか使ってなかったでしょ?」
「確かに言われてみれば……でも、どうすれば良いの?」
「それはまぁ、感覚かな」
そう言って莉音はいたずらっぽく笑った。そしてまた、暗闇の中にいる敵に向かって剣を向けた。どこか納得いっていないような心に、「さぁ行こう」と言いながら。




