最終章 第91話 莉音と同じ景色を
心は莉音が敵に斬りかかるその時まで、本当の意味で自分を信じることが出来ていなかった。間違いなく、この世界で莉音の次くらいの実力を持っているのだが、莉音と出会ってから常に自分と莉音を比べていたせいで自分のことを信じられなくなっていた。
「……これが……私の?」
目の前の炎が消えていく様子を眺めながら、心は自分の中に力が溢れてくるのを感じた。
魔剣は確かに、心の力に応えたのだ。まさに今、この瞬間に。
莉音の言葉のおかげとは言え、自分を信じて剣を振るった、この瞬間に。
「これが私の力……だったんだ」
心は剣を握り直し、莉音とは反対側にいた敵軍に剣を向けた。その剣に迷いはなく、その顔には強い想いが表れていた。
「うん、それが……心の力だよ」
「……いつから聞いてたの?」
「さっきから、かな。でも、こんなに早く見せてくれるなんてね」
「あはは……莉音が本当に果てしない景色まで照らしてくれているからね。私だって、こんな場所まで着いてきたなら同じ景色みたいもん」
「……そっか」
さっきまで減らしていたのが嘘のように、戦争が始まっていないかのように援軍がどんどん集まってきていた。おそらく、敵軍の半数がこの場所に集まろうとしていた。
敵の魔法部隊は、ある瞬間から息を潜めていた。その原因は、完全に莉音が持っている魔法吸収能力だった。これ以上魔法を使うことによる直接的な魔力援助を防ぐため、部隊長同士が連絡を取った結果であった。魔法を使っていても使っていなくても変わらなかったとも言えるのだが。
「……それじゃあ、一緒に見てみる?私と同じ景色」
「望むところよ!」
莉音は、不思議なほどに使ってこなくなった魔法攻撃と、やけに増え始めた敵の数を見ながら心に笑いかけた。心の中に生まれていた強い自信は、莉音にとって嬉しい返事を心から引き出した。
そして2人は駆け出した。同じ速度で、一緒に並びながら。
莉音と心は、一番前にいた数名を瞬間的に殺した後、左右に分かてて乱戦を仕掛け始めた。右側では火柱と雷撃が、左側では金色の魔力の奔流が敵を飲み込み続けていた。人を殺していく速度はほとんど同じで、殺されていく人々は何が起きているのか分からないまま殺されていくという状態になっていた。
敵の中に生まれたパニック状態は伝染した。止めていたはずの魔法攻撃が始まり、場所によっては闇雲な攻撃から始まる仲間割れが始まっていた。この混乱の中でこそ、莉音の戦場での狙いであり、この中でも相手に影響されずに心が戦いきれるのかという、心への試練も狙いに含まれていた。




