最終章 第84話 最期の独白
あの日……私が、何も考えずに戦い続けていたあの日……私には、生き続けたいと思えるような理由がなかった。
クロノア団の皆を守るためとはいえ、皆に黙って勝手に戦場に行ったことには少なからず後悔があったけど、命を賭けて戦うことで気にしないようにしてた。それも相まって、いつも以上に自己犠牲みたいな戦い方してたと思う。
それに、あの時は「無」も「始」も覚醒してなかったから、今みたいに安定して敵を殺せてなかったし、神域魔法を使ってなかったらすぐに魔力切れを起こしてしまうって感じだった。戦場で一緒に戦う仲間もいなかった。だから、囲まれても無理矢理突破したり、意図的に同士討ちを狙ったりもできた。ただ戦争に勝てれば良い。それだけだった。
でも、今は違う。仲間がいる。守れなかった苺も、今目の前で眠っている心も。もしかしたら、今この戦場で一番中途半端なのは私だったのかもしれない。
「……ねぇ獅子宮……私は…………本当にこれで良かったの……?」
私が投げかけた言葉に答える者はいない。それもそうか。苺だけじゃない。獅子宮どころか、私を育ててくれた神獣達も、助けてくれた師匠達妖精すらいない。いるのは、目の前で寝てる心と、学園で私たちが帰ってくるのを待っている玲奈達だけだ。
「……あはは……誰も答えないって分かってたのに……馬鹿みたい」
自嘲気味に笑ってから、ぎゅっと剣を抱き寄せるように体に寄せた。この2本の剣は、獅子宮が言うには私が生まれたときから持っていたものらしい。だから魔力適性を持っていたし、今まで何度も死の淵をさまよったのに生きている。皮肉なのか、または神とか言う愚か者の当てつけか……私にこんな運命を与えてきた2本だ。
「でも……もうこの世界の終末を止められるのは……私だけ。私が死んで……この2本も一緒にこの世界から消す……神はきっと、この結末を私に託してる……」
こうやってうじうじ考えてると、少し悲しい気持ちが強くなる。私の良くない癖だ。
2本の剣を地面に横たわらせ、2回深呼吸、2回自分の頬を両手で叩いてから、「よしっ!」と気合いを入れた。そして、地面に横たわっている2本の剣に両手をかざした。
魔剣、魔神剣にある共鳴は、その祖である2振りの剣でもそれは可能である。だが、この場合は共鳴ではなく「同化」。つまり、自分の体と「無」「始」の2本を直接的につなげ、一時的に神そのものになることができるということ。
「……もう、こんな思いをしないように……せめて最期は――」
私の体を黒と白の魔力が包み始めた。これが同化開始の合図。そして、私の中で閉ざされていた何かが開き始めていることの顕れだった。




