最終章 第80話 苺の意志を継ぐ
「苺ちゃん!」
莉音が苺と心のもとに着いたときには、2人の戦いは終わっていた。心に貫かれた敵の体は力なく苺に倒れ込みそうになっており、その敵に貫かれた苺も、立っていることがやっとといった状態だった。
「あ……り、おん」
「よっしゃ!やっと開い――」
「近づくな!!」
ここぞと攻撃してきた敵を、莉音は威圧だけでひるませ、容赦なく首を切り飛ばした。その後、「始」の持つ能力を展開して誰もその場所に入ることが出来ないようにした。
莉音は血まみれのまま苺のそばに駆け寄り、魔力で傷口からの出血を止めながら剣を引き抜き、それを確認した心は、敵の死体を投げ捨てるようにして遠い場所に置いた。心は一応の確認として、剣で首の部分を一刺しし、最悪の展開を事前に防いでから2人のもとに戻った。
「……莉音?」
「話さないで。今傷口を……」
「ううん……もう、いいの」
「良くない!もう、私は仲間を失いたくないの!」
「……莉音、血まみれ……服も、顔にも……」
苺は、剣を持っていない左手で莉音の頬に付いていた血をゆっくりと拭った。
「……これで、綺麗」
「苺ちゃん……」
「……莉音は、あの世……信じてる?」
莉音が賢明に治癒魔法を使うも、苺の傷口から溢れ出る血は収まらなかった。苺の最期は、すぐそこまで近づいている。それはもう明白だった。
「私は……信じてる…………だから……」
苺は、虚ろになりつつある目で莉音の後ろにいた心を見て、笑うかのように目を閉じた。
「……ねぇ心、莉音を……支えて、あげて……私の、分も」
「……わかった。苺の分も、頑張るよ!」
「うん……それでね、莉音」
目を閉じたまま、苺は莉音の方に目を向けた。莉音はもう、苺に何も言えなかった。ただ、消えてしまいそうな命の希望を、無理矢理でもつなげようとすることしか出来なかった。
「また……あの世で会ったら…………苺って、読んで……ほしい」
「……うん。うん!わかった……!だから――」
「ふふ……ありが……とう」
苺の手がもう一度莉音の頬に触れた。それは付いていた血を拭うためではなく、自分の手に付いた苺自身の血を使って、自分の残っている魔力を全て莉音に託すためだった。
苺の魔力が全て莉音に流れ込んだあと、苺の手の中から魔神剣がカラカラと音を立てて地面に落ちた。苺の体は、抜け殻のようにだらりとなってしまっていた。
莉音は、苺の体をゆっくりと魔力に還元し、半分を心の胸に、もう半分を自分の胸に入れた。
「……行こう」
「うん。苺の分も、私たちで」
「絶対勝とう。苺のためにも」
「始」の能力が閉じられていく光景を見ながら、2人は手を繋いでこの戦いの勝利を胸の中に残した苺に約束した。もう二度と、悲しまないために。




