最終章 第77話 生命血界
結界に閉じ込められた瞬間、心と苺はとてつもなく嫌な予感が頭をよぎった。
「……苺、これってまさか」
「うん……閉じ込められた……」
「いやはや、何のことでしょうかね」
「これは、私たちだけでこいつを殺さなきゃダメみたいね。多分、さっきのあいつと同じくらいか、それ以上の実力がありそうだけど」
「構わない……行くよ」
「良いですよ。あなたたちなら私と対等に戦うことが出来そうですし。では、始めましょう」
陣魔法で生成された結界が真っ赤に光り始めた。まるで、血の色のような赤色だった。
「心……私が最初に、仕掛けるから……心は様子を見てから」
「わかった。でも、1人で大丈夫なの?」
「問題ない。むしろ、その方が……やりやすい」
「何をこそこそと……おっと」
苺はまっすぐに敵に突撃し、斬りつける瞬間に魔神剣の能力で背後に瞬間移動した。確実に急所を狙える場所、タイミング。苺が使っている魔神剣の習性を理解していないと防ぐことが不可能な攻撃だった。
しかし、その攻撃はいとも簡単に防がれた。それも、あまりにも不自然な形で。
「……見えてるの?」
「もちろんですとも。それにその剣……まさか、あの男以外に使い手がいたとは思いませんでした。いや、今はあの男に感謝するべきなのかもしれませんがね」
「そう……」
「これは、久しぶりの感覚を思い出させてくれたお礼です。この魔法について教えてあげましょう。この魔法は、私の脳を直接繋いでいるようなものです」
「ご丁寧に……どうも」
「まぁ、これを知ってどうするのかという話ですがね。雑談もこれほどにして、再開しましょうか」
敵の話と魔法の様子だけで、苺にはこの陣魔法の名前と能力を完全に理解した。「知ってどうするのか」と言われた理由も。
この陣魔法の名前は「生命血界」と呼ばれる、禁忌魔法の1つ。魔法そのものは一般的な魔法と違い魔力ではなく、生命力と呼ばれる特殊な力を用いて生成する決戦場のような場所のこと。その場所全てに自身の脳を接続しており、その中で魔法使用者が死ぬか術使用者以外の全員が死ぬまで継続する。
この次元の禁忌魔法をここまで躊躇無く使う敵……これだけで、苺の首筋を一粒の汗がゆっくりと落ちていくのを感じた。
「……まだ、足りない……の?」
「あや?どうしたのですか?もしかして、おとなしく私に殺される気になったのですか?まぁ、そんなつまらないことをするつもりは毛頭ありませんが」
「……違う」
苺は、剣をぎゅっと握り直して相手をにらみつけた。
「あなたを……殺す」
命そのものを、魔神剣に乗せながら――




