最終章 第69話 別れと旅立ちと出逢いと
けたたましいほどの警報音が鳴り響いたのは、あの町に来てから初めてのことだった。
「……ついに来てしまったか」
「来たって……誰が?」
「敵だ。2人とも備えろ」
綴さんがそう言った瞬間、家の扉が吹き飛ばされた。踏ん張ってないとそのまま壁に打ち付けられそうな程の衝撃と共に、肌を焼き付けるような熱風が体に激突してきた。その時苺は、結界魔法でなんとかもちこたえてるって感じだった。
「……想像以上だな。もうここまで来るとは」
「これって……まさか……!」
「心……行こう。綴さんも」
「ふふっ。まさか苺にそんなこと言われる日が来るとはね」
2人が走って外に向かう後ろを、空気に飲み込まれそうになりながら追いかけた。初めての戦場ってわけじゃなかったけど、少し前に戦った町での記憶が邪魔してきている感じがあった。
外に出るとそこには、地獄のような光景が広がっていた。町は炎で包まれ、そこら中に焼け焦げた死体が転がっていた。その中心で、異様なほどに白い服を身に纏った10人ほどの集団が最後の生き残りを探しているかのように魔法を乱射していた。
「あそこだな」
「……まさか、あいつらがこの町を?」
「この惨状からして、間違いないだろうね」
「うん……やるよ」
・・・
「あの時の戦いは、今でも覚えてる。ただ敵を殺すためだけに魔剣を使って、ただひたすらに剣を振ってた。あとは、苺の結界魔法と、綴さん……あ、私たちを受け入れてくれた家の人なんだけど、その人の特殊形状型魔法とって感じだったね」
「……うん。結構、ギリギリだった」
「あはは……綴さん、殺されちゃったしね」
心と苺が目を合わせて苦笑いを浮かべた。
莉音は、そんな2人を見ながら申し訳ない気持ちが生まれていた。終末戦争中に様々な戦場を駆け回っていた莉音ですら知らない戦場の話が、心の口からたくさん出てきたからだ。
「それで、そのあと2人で旅をしようってなったんだ。またいつ襲撃されるかわからなかったし、それに……ずっと止まっていても何も始まらないから」
「そっか。そんなことが、あったんだね」
「それで、私たちが戦場のことを知ったのは、数ヶ月後だったと思う。莉音のことが張り紙に書いてあって、莉音が戦場でたった1人で戦っているってことを知ったんだ」
「張り紙?」
「……もしかして、莉音は……知らない?」
「あはは……ずっと戦ってたから、他のことは全く知らないんだ。でもそっか……ちょっとうれしいかも」
「それじゃ……莉音の番」
「えっと……話すって言っても、終末戦争の時の話しか残ってないけど、それでもいいの?」
「うん……あと、神域魔法、使った理由」
「あはは。そうだったね。それじゃあ――」
莉音は深呼吸をしてから話し始めた。今この場所で自分しか知らない、過去の終末戦争での記憶についての話を。
 




