最終章 第60話 蹂躙の始まり
「お前ら、その宣げ――」
「はい、1人」
莉音達の宣言を聞いた敵軍の1人が、一歩前に出て何かを叫び始めた瞬間、懐に入り込んだ莉音の剣によって上半身と下半身に分かれた。莉音は、返り血を浴びないようにすぐに敵の肉体から距離をとり、剣から血を払い落とした。
「な?!」
「不意打ちなんて卑怯だぞ!!」
「……不意打ちも、卑怯も……認めるよ。でも――」
莉音の剣は、言葉を発した者全てを容赦なく切り捨て、戦場を少しずつ血肉に溢れた地獄へと変えていった。
「戦場は、そういう場所。いつまで突っ立ってるの?十分猶予はあげたでしょ?」
「舐めやがって……!!行くぞお前ら!」
「さぁ、ここからが本番だよ、心、苺ちゃん」
「「うん!」」
敵の表情が一気に現実に戻った。そして武器を構え、3人に向けて一斉に攻撃を始めた。
「……特殊結界魔法『魔鎧』……行くよ」
「ありがとう苺ちゃん!」
「よっしゃ!これで思う存分暴れられる!」
「……限界はあるから、注意」
「わかってるよ!」
「心は深追いしすぎちゃだめだからね」
「もう!莉音まで!」
「話してる時間はねぇぞクソアマアァァァ!!!」
「来るよ!散っ!」
怒りに身を任せて突撃してくる数百万の敵に対して、莉音達はそれぞれに目の前の敵軍を任せて迎え撃った。
銃声、魔法詠唱、爆発音、そして悲鳴……様々な音が戦場を覆い尽くし、様々な色が世界を包み込んでいた。人が吹き飛び、時には四散し、まるで雨のように真っ赤な血が戦場に降り注ぐ。
「ぐわぁあぁぁ!!」
「どこだ!どこに……ぎゃああああ!!」
「支援魔法班は何をやっている!早く支援を!」
「戦況は?!戦況は今どうなっている!」
敵軍は完全に混乱状態に陥ってしまっていた。指揮は乱れ、標的である莉音達を完全に見失ってしまい、さらには仲間割れに等しい無意味な争いすら発生し始めていた。そんな状態の敵を、莉音達は1人、また1人と確実に減らし続けていた。
「ちくしょう!くらええええ!!」
「ここかぁぁぁぁ!!」
「……おしい。じゃあね」
「がっ……!くそ……」
「ばけもんが……!」
偶然莉音を見つけられた2人の戦士が、全力で莉音に剣を振り下ろした。しかし、その剣は2つ同時に一瞬で空中に弾き飛ばされ、完全に無防備になった2人の体を剣が通り過ぎた。そして、その場に残ったのは、4つに分かれた2人の戦士であった。
戦争は、もうすでに一方的な蹂躙へと変化し始めていたのであった。




