最終章 第59話 私たちが世界の敵である
大きく重い扉を押し、3人は拠点から地上に続く道に出た。
「……2人とも、本当に良かったの?」
「うん。未練が何もないってわけじゃないけど、何も後悔はしてないよ」
「同意……それに…………最期は、莉音と一緒が良い」
「最期……か。いいね。私も、これからの時間を、2人と共に戦えて嬉しいな」
何もない、真っ白な道を歩き続けていると、外に出る洞窟のような場所につながった。この洞窟が、拠点と戦場を繋ぐ境界になっていた。
「この3人だと、皆崎が攻めてきたときのこと思い出すね」
「そうね。でも、あの時と背負ってるものが全然違うのよね」
「……でも、勝つ」
「さすが、苺ちゃんは心強いね。それに、心もなんだかんだこの状況、楽しんでるでしょ」
「あれ?ばれてた?」
「むしろばれてないとでも?」
洞窟の出口で一度立ち止まり、3人並んでから一度大きく深呼吸をし、莉音の瞬間移動魔法の衝撃に備えた。目標座標は進行中の敵軍ど真ん中。
「さぁ、始まるよ。準備はいい?」
「ええ!」
「うん……!」
「それじゃあ奇襲、行くよ!」
莉音の髪の毛が白色から水色に変わり、莉音を中心に空中に発生した魔力の粒子が3人を包み込み、その場から消えた。
時を同じくして、世界連合軍歩兵部隊。戦場になる東アジアを目指し、シルクロードを進行中の200万部隊約15億人の歩兵は、「莉音を殺せ」という命令と多額の報酬だけで統率されており、部隊としてはかなり未熟なものであった。
莉音の狙いは、そこだった。予想だにしないタイミング、状況での一方的な戦闘の押しつけ。寄せ集めの軍隊は、数だけの軍隊。例え同じ目的があろうとも、人間はエイミーではないのだ。
「……始め!」
世界連合軍の中心に現れた3人は、莉音の合図で戦闘を始めた。3人が同じ方向に走り出し、心は「雷電煉獄」を、苺は「霧の方舟」を、そして莉音は「無」を全力で振るい、一振一殺の意識で敵を殺し始めた。
ついさっきまで何もなかった戦場に、炎が混じった落雷、視界を奪ってしまうほどに強い雨を伴った超局地的な嵐、それに巻き込まれたまま息絶えた大量の死体と死んだ者の真っ赤な血液が現れた。
「な、何が起きている?!」
「探知班!早く状況を!!」
「なんだ?!なにが――」
戦場が阿鼻叫喚に包まれ、わずか3人に襲撃された10数億の大軍隊がバラバラになり始めていた。
「もう十分!心、苺ちゃん!」
「うん」
「上手くいったね!莉音!」
3人は5分ほど戦場で暴れ回り、自分たちで作り上げた合計1万人以上の死体の山を、剣を振った風圧だけで吹き飛ばした。そして、敵軍の中心に3人で背中を向け合うようにして立ち、敵に剣を向けて高らかに宣言した。
「かかってこい。私たちが世界の敵である」と――




