最終章 第54話 背中を任せられる仲間
暗い夜道を、1人の少女がゆっくりと進んで行く。
風によって少女の髪の毛が揺れ、月明かりがその髪の白さをより際立たせている。
「……この場所でも、いろんな事があったな~」
莉音は校門が見え始めた場所で立ち止まり、学園の方を向き、白夜学園で起こったことを思い返した。
「……他のみんなにも、お別れしたかったな……でも――」
「莉音!!」
「……え?」
「やっぱり……ここにいた」
「心と……苺ちゃんも?」
「うん……心に、起こされた」
慌てた様子で駆け寄ってきた心は、苺に背中をさすられながら息を整えていた。
「2人とも、なんで来たの?」
「……私は、心に連れられて」
「だって……目が覚めたら莉音がいなかったから、少し……嫌な予感がして」
「そっか……」
「……莉音は、なんでここに……いたの?」
「なんでって……」
今から始まることは、莉音にとって誰も巻き込みたくないことであり、このまま玲菜以外誰にも言わずに戦場に向かうつもりだった。あの時みたいに。
「えっと……」
「言えない、こと?」
「……うん。これは、私だけの問題だから……」
「もしかして莉音、私たちを巻き込まないようにしようとしてない?」
「……なんで、そう思うの?」
「前科あるから」
「前科?」
心は莉音の顔を両手で頬を挟み込むようにして、莉音が逃げ出さないように捕まえた。
「終末戦争の時。私たちに何も言わずに行っちゃってたじゃない。私たち、張り紙で見てびっくりしたんだから」
「むぁっ……」
「だから……もしまた戦いに行くって言うのなら……連れてって。私たちも」
「……それは、同意。でも……莉音、話せる?」
「みゅ、に……」
「あ、ごめん!」
莉音の足が地面から離れていることに気付いた心は、慌てて莉音を地面に戻し、いったん深呼吸をしてから、もう一度莉音を見つめた。
「もう一度言うよ。私たちを、連れてって。どんなに遠い場所でも、どんなに過酷な環境でも。だって私たちは……仲間、なんだからさ」
「……本当に、いいの?後悔、するかもしれないよ?」
「それは……大丈夫。もう、今更」
「だから、教えて。莉音が今からどこに行こうとしているのかを」
覚悟を持った目。莉音を見る2人の目には、強い光が宿っていた。
「……わかったよ、2人とも……」
莉音は、1人で全てのけりをつけることを諦め、2人と一緒に戦場に向かうことに決めた。たった1人で戦おうとしてたあの時とは違い、「背中を任せられる仲間」がいる。その事実が、莉音にとって本当に嬉しかった。
「今から起こることは、2年前よりも残酷かもしれないよ?それでも、一緒に戦ってくれる?」
「もちろん!」
「無論」
「ありがとう……それじゃあ、猶予はないから、行くよ!」
校門に向かって駆け出した莉音の背中を追うように、心と苺も駆け出した。少し薄くなった夜空に、別れを告げるように。