第1章 第27話 修羅場
重い空気。これを修羅場と呼ばず何を修羅場と呼ぶのだろうか。
誰も口を開こうとせず、むしろこの重い空気を保とうとしている。
「……えっと……」
あまりに居心地が悪くなったので少しずつ後ずさっていく。その行為が逃げであることは私が知っている。知っているけど、そうでもしないと耐えられなかった。
「?」
「……」
少しした時、何かにぶつかる感じがした。あれ?おかしいな。こんなすぐ近くに壁ってあったっけ?
なんて思って後ろを見ると、何食わぬ顔で心が立っていた。しかも無言で。
「え?…………え?」
「……ねぇ玲奈、どういうつもり?」
「どういうつもりって?それはこっちが聞きたいのよ!」
さっきまでの静寂とは打って変わって、バンッ!という音とともに怒りのこもった叫びが部屋の中に響き渡った。
「玲奈……怒りたい気持ちはわかるけど、落ち着いて…冷静じゃなきゃ、だめ」
「いや、苺。これはこうしなきゃならないの。これが、きっと莉音のためになる」
え?私のため?どういうこと?こうやって重い空気にしているのすら辛い思いにさせることが私のためってどういうこと?
「莉音。ひとつ聞いてもいい。どうして、何も言ってくれないの?」
「え?それってどういう……」
「そのまんまの意味!ちゃんと言って!」
どうしてだろう。私はここで全てを言うべきではないと感じてしまった。多分、今話してしまうと、今後同じような手口でやってくるかもしれない。もしそうなってしまったら、私は平常心のまま彼女たちと一緒にいられるのだろうか。
「言えない」
「はぁ?」
「言えないと言いました。私は、言えません」
はっきりと言った。私は、このままみんなと決裂する事になっても構わない。だってまだ出会って1ヶ月に満たない関係。切ることは容易いし傷も少ない。
「その言葉、後悔はないの?」
「ないです。私は、あなた達をあまり知りません。なのに、あなた達は私のことを少しでも多く知ろうとしてくる。正直に言います。今、1番信用できるのは心だけ」
私は、これでいいのだろうか。本当に、彼女たちと決裂してしまうかもしれない道を選んでもいいのだろうか?もう後悔はしない。これで別れるくらいなら、この人たちはその程度だってこと。ただ、それだけ。
「そう……莉音の言い分はわかった」
玲奈は、そう言うと静かに立ち上がった。
「1度、剣を交えましょう。私と、あなたで」
私に向けられた剣は、明らかな殺意があった。
「いいでしょう。受けて立ちます」
その剣に私は剣を合わせる。剣で語る。剣士として、そして白夜学園の生徒として、その語り合いに身を投じる。




