第4章 第52話 受け継がれし者
「でもこれ……莉音にとって大事な形見だって……」
「うん。命を賭してでも、守りたいモノだよ。でもね……」
莉音は立ち上がり、玲奈の手の上に瓶を乗せ、その手を上から包み込むように玲奈の手を握った。
「私は、これを玲奈に持っていて欲しいな」
「それは……どうして?」
「玲奈なら、私の宝物を……ただの『物』にしないで持っていてくれそうだからさ。それに――」
玲奈の手を握ったまま目を閉じた莉音の足下に、さっき空中に描いていた魔法陣が現れた。その魔法陣が現れたことを確認した莉音は、自身の周りに魔力の粒子を出現させた。
「――この瓶には、私の想いも入ってるからさ」
空中に浮かんだ魔力の粒子は、吸い込まれるように足下の魔法陣に吸い込まれていき、魔法陣そのものを書き換え始めた。魔法陣は書き換えられた場所から水色に輝き始め、その輝きは少しずつ2人を包み込んでいった。
「これって……」
「ふふっ。綺麗でしょ?」
「そうね……それに、とても温かいわ」
「そっか……よかった。私も、ちゃんと成功できた」
水色の輝きはすぐにドーム状の結界となり、結界内の様子を外から見ることができないようになった。そのことを確認した莉音は、目を開け、ふにゃりと笑った。
「成功って……?」
「すぐにわかるから大丈夫」
「大丈夫ってど――」
「ねぇ玲奈」
玲奈の言葉を遮るようにして、莉音は玲奈に語りかけるように儀式詠唱の準備を始めた。
「今から言うことを、ずっと覚えていて欲しいな。それで、玲奈が死んじゃうとき、また次の人に……この詠唱ごと、この瓶を、想いを……残してほしいの。お願い、してもいい?」
「……もちろん。莉音の名も、妖精族の想いも、神獣達の想いも……そして、莉音の想いも。この先永久的に残していくことを約束するわ」
「ありがとう、玲奈」
玲奈の言葉を聞いた莉音は、一度深呼吸をしてから、一度きりの儀式を始めた。
「……世界よ、我が命に従え」
魔法陣の輝きが、莉音の解錠詠唱を受けて少しずつ縮まり始めた。
「今より、特殊妖精陣魔法『イレオヴルフ』の所有権を変更する」
「特殊……妖精陣魔法……?」
「……今から、私の名前を言うから、その後に自分の名前を、ちゃんと全部言ってくれる?」
「……わかったわ。」
「ありがとう。それじゃあ――」
陣魔法を行うために必要な、解錠と内容指示の詠唱を終えた莉音は、玲奈に最後の儀式の手順を説明した。
「所有者の名、黒崎 莉音より――」
「――星月 玲奈」
「今より陣へと刻む名を、我が名より星月 玲奈へと!」




