第4章 第42話 1つの約束
「さて……そろそろ帰ろっか。もう夜も更けてきたし」
「うん……そうね」
莉音の言葉に、心は言葉が出なかった。このまま受け入れていいのか。それとも、この覚悟を否定する方が良いのか。あるいは……心には、その答えを即座に出すことができなかった。
「……?心、どうしたの?」
「何もない……ことはないこと、もうわかっちゃってるわよね」
「うん。もしかしてだけど……難しいこと考えてない?」
「莉音って……人の心が読める系女子?」
「なにそれ。でも、そうだね。少しだけならわかるよ。特に心はわかりやすいし」
「そ、そんなにかな?」
2人で寮の中に入り、部屋に向かいながらさっきまでとは全く違うような話を続けた。そうこうしているうちに、部屋に着いた。その間に誰にも会わなかったのは、2人にとってある意味幸運だったかもしれない。
部屋の中に入り、扉を閉めてすぐに、後ろから部屋に入った莉音が心に背中から抱きついた。
「え?!な、なに……!?」
「心はさ、私のこと、心配?」
「し、心配なんてそんなこと……」
「本当に?」
「それは……」
「ねぇ心……私は、心の本心が聞きたいな」
莉音は何も取り繕っていなかった。その場所にいたのは、戦士としての莉音ではなく、すぐに壊れてしまいそうなほどに脆い、ただ1人の少女としての莉音だった。
「さっきの私の言葉、覚えてる?」
「さっきの……?」
「うん。『いつまでも世界と戦い続ける』っていう言葉」
「……うん。覚えてるよ」
「あの『私』と、この『私』は別だって……思ってくれる?」
「わかった……」
「私ね……時々寂しくなるんだ。ずっと一緒にいると思っていた存在が、もう遠い場所に行っちゃったから」
「あっ……」
心は、莉音が何のことを話しているのかすぐにわかった。仲間や育て親の死。それが1人1人ですら乗り越えることは本当に難しいことなのに、それが急に続いて襲ってきたのだ。受け入れることができるだけで、十分すぎるほどにすごいことなのであった。
「正直ね……もう乗り越えられてたと思ってたの……でも、心の中がぽっかりと空いちゃったみたいになるときがあって……」
「……莉音って素直になると本当に子どもみたいになるよね」
「あはは……否定できないかな。でも、たまにはいいじゃん」
「ふふっ。そうだね」
「……ねぇ心、もう一度聞くよ。私のこと、心配?」
「……うん。とても」
「そっか……じゃあさ心、1つ、約束してくれる?」
「うん」
莉音は心の体から離れ、飛び跳ねるようにして心の視界に入る場所に移動して、後ろで手を組んで無邪気に笑った。
「心、私のために生きてくれる?もし私が死んでも、また、出会える時まで」
「……わかった。約束するよ」
心は、大きくうなずいた。絶対に、この約束を守るという覚悟を持って。




