第4章 第36話 望んだ雪辱
あまりにも突然現れた魔力の奔流は、その空間に存在する全ての意識を奪い尽くした。
「上手くいったね!」
「うん!それじゃあ――」
「「勝負!!」」
2人の声に合わせて、魔力の奔流がそれぞれの体を覆い始めた。
「魔力套」
「え?」
「上位魔法の1つで、取得自体が難しいとされている魔法。性質は使用者に大きく左右され、相性関係も存在する」
「どうしたの急に……」
「あの2人は、最高のタイミングで最高の舞台を自分たちの力で用意した。でも、彼は?」
「彼って今仲 彼方のこと?」
「そう」
莉音は2人の少女を見つめ、ざわつく会場内に響くように1度だけ手を鳴らした。
刹那、2人は地を蹴った。
さっきまでの空気が戻ったのも束の間、2人が接触した瞬間に空間内に張り詰めていた空気そのものを吹き飛ばした。
「彼は結局、自分しか見えてなかった。これだけの観客が見ている中でさえも、ね」
「だから今、この空気に飲まれてしまってるってこと?」
「そう。まぁ、この試合には勝てただろうけど……この先かなり不穏なんじゃない?」
莉音の言葉が示しているように、今仲 彼方は完全に2人の戦いに意識が持って行かれてしまっていた。もし今この場所が戦場であったなら、完全に命を落としてしまっているほどに。
「莉音はさ、『2人が自分と似てる』って言ってたけど……こうなることわかってたの?」
「ううん。でも、何かしでかしてくれるんじゃないかなって思ったんだ。去年、彼との戦いで空気に飲まれて負けちゃった2人だったし」
「彼に負けたって……もしかして、去年のデータ全部把握してるの?!」
「全部じゃないよ。データ入力の段階で気になった人のを少し把握してるだけ。あ、そろそろ終わるよ」
衝撃波に次ぐ衝撃波。会場そのものを揺さぶり続けている2人の戦いは、無情にも剣と剣の間に現れた「試合終了」という文字の書かれた障壁に阻まれるという形で幕を下ろした。
ひときわ大きな衝撃波を放ちながら、2人の少女は同時に吹き飛ばされ、戦場を区切る障壁に激突した。
「Aブロック1回戦第151試合、浪平 瑞羽対 尾野嶺 華両者同位により、引き分け。よって、両者敗北とする」
静まりかえった会場に、機械音声が「両者敗北」という試合結果を告げた。この結果は学園序列戦初の結果であった。
これにより、2人の少女――瑞羽と華の戦いは終わりとなった。
誰にも見向きもされなかった少女達は、2人が望んだ形で雪辱を果たし、会場に集まった全員から、大きな拍手によって健闘を讃えられたのだった。




