第4章 第34話 今仲 彼方
2人が入った体育館の観客は、未彩と浰馣の戦いを見に来ていた生徒の人数を軽々と凌駕していた。
「うわ~、すごい人。今誰がやってるんだっけ?」
「今?えっと~……」
心は端末を操作しながら、対戦表と対戦している生徒の情報を探した。
「う~ん……正直誰もぱっとしないかな。それに、よく見たらほとんどの人が試合見てないし」
「あ、ほんとだ。もしかして、ここにいる人たちみんな次の試合目的?」
「もしかしなくてもそうみたいね。ということは、莉音もこの次の試合が目的なの?」
「うん。でも、ここにいる人たちと目的が違うと思う。あ、あの、一つ良いですか?」
莉音はそう言うと、近くにいた1人の女子生徒に声をかけた。
「え?あ、どうしたの?」
「あの、どうしてこんなに人が集まってるんですか?」
「え?!知らないの!?次の試合で彼方様が出るからに決まってるじゃない!」
「かなた様?」
「そう!前回の序列戦で本戦出場!しかも1位リーグ進出!それでいて戦いがとてもかっこいいの!今回こそは去年負けた将様にも勝てるはず!」
完全に変なスイッチが入ってしまった女子生徒を見て若干引き気味な莉音は、苦笑いを浮かべてお礼を言いながらその場から離れた。
「あ、飛んで火に入った夏の虫だ」
「その呼び方はやめてくれない?」
「事実そうだからね。ここにいる人はみんな彼方……今仲 彼方が見たいのよ。莉音がこの時間の試合見たいって言ったから、彼方のことだと思ってたけど」
「違うよ。私が見たいのはその隣。えっと確か……」
「隣?あ~……2人とも強そうには見えないけど」
「本当にそう思う?」
そうこうしているうちに会場では試合が終わり、次の試合を見に来ていた人たちのテンションも徐々に上がり始めていた。
「あの2人は強いよ。1回戦で当たってる以上、どちらかしか見ることが出来ないのはちょっとさみしいけどね」
「う~ん……莉音がそう言うならそうなんだろうけど。でも、なんでそう思うの?」
「なんでっていう明確な根拠はないんだけど、強いて言うなら――」
体育館が、割れんほどの歓声に包まれた。
会場では、4カ所それぞれの場所に対戦者らしき生徒が集まり、各々で準備を始めていた。
「……主役が来たみたいだね」
「え?あ、ほんとだ……う~ん、座れそうになさそうだね。どうする?」
「このままでいいよ。ただ、ちょっと奥の方に……」
「了解。行こっか」
「うん」
試合が始まるまでまだ5分以上あったが、観客はさっきの倍近くになっており、観客席を完全に圧迫していた。
移動中、莉音はどうにかして人の隙間から彼方を見ようとしたが、身長のせいで全く見えなかった。
「ここでいい?」
「……見えない」
「あ、そっか。ちょっと待ってね~」
莉音が人に埋もれそうになっているのを見て、心は笑いそうになりながら前に抱えた。
「これで見える?」
「見えるけど……なんか悔しい」
「あはは。莉音はちっちゃくて可愛いね~」
「斬るよ?」
「ごめんごめん。ちょっとね?」
「むぅ~」
少し不服そうにしながらも、莉音は会場の方に目を移した。
「……桜崎 莉音か」
会場で1人、観客席にいる莉音をじっと見ている者がいた。その者の名は――
「あんなやつに負けるとは、将も落ちたものだな」
――今仲 彼方。その人である。




