第1章 第25話 皆崎の真相
「本当に、正しかったのでしょうか……」
1人ぽつんと廊下に取り残された玲奈が人知れず呟いた。いくら感情的になっていたとはいえ、言っていい事と悪いことの区別ぐらいは付けられるはずだった。
「本当に、覚えてないのね……」
玲奈は、1度口を滑らせてしまった。莉音からしたらよくわからなかったそれも、玲奈にとってはかなり痛い自滅行為だった。
「もう10年も前の事ですもんね……私自身、自分でもよく覚えているなって思うくらいだもん。ずっと戦ってた莉音が覚えてるわけないのにね」
玲奈は、ずっと自制してきたつもりでいたわがままな自分に嫌気がさしてきていた。そのせいか、自滅からの自虐という最悪すぎる循環に陥ってしまっていた。
「はぁ……」
「あれ?どしたの、ため息なんてついちゃって」
「え?」
自分一人だけと思っていた空間で、自分以外の声が聞こえてきた。玲奈は軽く驚きながら振り返ると、そこには皆崎が片手を上げながら笑顔で立っていた。
「あなたがそれ言いますか?」
「さ〜て、なんのこと?」
「とぼけないで!事の発端はあなたでしょう!?」
「頼んできたのはどこのどなたでしたっけ?」
スピードカウンターに近いその言葉に、玲奈は返すことが出来なかった。
そうなのだ。皆崎が莉音を呼び出した理由は玲奈に頼まれたから。また玲奈が頼んだ理由は、理事長室に呼び出す口実を作るため。
部屋を出てすぐ莉音が玲奈に捕まったのは、偶然ではなく必然だったのだ。
「で、でも!あなたもいいものが見れたんじゃないの!?」
「まぁ、な。初めてだよ。あそこまで金色に光る眼を見たのは」
苦し紛れの反論になんの攻撃力も無い。逆に玲奈が知らない情報を提示され、赤マントでも構えているかのように皆崎は余裕だった。
「っと、その話は置いておこう。それより、あの子が本当に『赤き青薔薇』で間違いないんだな?」
「うぅ…後で聞きますよ……もちろんですよとも。逆に聞きますが、本当に魔剣の使用者が死んだら移り変わるとでも?」
「愚問を」
軽い罪悪感を拭っているような瞳で、皆崎は玲奈と目を合わせた。
武術教員の1人である皆崎が魔剣についての一般常識を心得ていないはずがない。でも、あの時はああやって言うしかなかった。いや、正確にはそう言うしか逃げ道が無いとすら思えてしまっていた。
「はぁ……あんなのに授業するのか……」
「何か不満でも?」
「はは。まさか。先の戦争の英雄の剣を間近で見られるなら願ったり叶ったりさ。でも、コロシアムでの戦いの時、明らかに隠してた。魔剣以外の全てを。それでどう教えようか絶賛迷走中の時にあんたからのよく分からない依頼が来た」
その件は申し訳ありませんでしたと言いながら丁寧に頭を下げる玲奈に、皆崎は何も言わなかった。
とんでもないわがままを頼んでしまったという罪悪感に包まれた玲奈と、人生で初めて依頼を失敗したという悔しさのはけ口に玲奈を利用しようと思ってしまっていた自分を恨んでる皆崎が、重い空気を緞帳のように下ろしながら廊下をドボドボと歩く。
「じゃあ、私はここで」
「おう。頑張れよ、理事長」
その言葉を残し、皆崎は去っていく。
「私も、切り替えよう。莉音には、後でちゃんと謝ろう」
目の前にそびえ立つ生徒会室のドアの前でそう決意する。そして、やたら中が賑やかな生徒会室に足を踏み入れようとしたその時だった。
「え!?『赤き青薔薇』は、魔剣を三本も持っている!?そんなばかげたことが、有り得るとでも!?」
苺のその叫び声が、こだまするように鼓膜に届いたのは。




