第4章 第32話 本当の「戦い」
「楽しそう?もしかして、遊び感覚でここにいるってんじゃないだろうな?」
「まさか。私はここにいる全員に敬意を持っているよ」
浰馣の目は常に莉音を試しているようだった。嘘やごまかし、隠し事をしようものなら殺す。そんな雰囲気をかもし出していた。
「ただ……そうだね。少し私の話をすると、私の知らない『戦い』に出会いたかったんだ。今まで、同じ『戦い』の中にしかいなかったから」
「『戦い』の中……?それって……戦争って、ことですか?」
「その認識は半分正解だよ、苑箕さん。でもね、それだけじゃないんだ」
莉音は2人を交互に見てから、浰馣をじっと見て言葉を続けた。
「殺し合い……もっと簡単に言うと、命の奪い合い。本当に戦いって言うのかわからないけど、私にとってそれが『戦い』だったの」
「……なんで私を見ながら言うんだよ」
「ふふっ。もしかしたらこの気持ち、少しはわかってくれるんじゃないかって思って」
「ちっ……何でわかってんだよ」
「まぁ、剣かな……ちょっと話がずれちゃったね。でも、戦争が終わってから少し考えたんだ。本当の『戦い』ってなんだろうって」
絞り出すように紡がれる莉音の言葉。その全てが重しのように、3人の心に積み重なっていく。
「それでね、昔のことを考えたの。お父さんと修行してた時のこと……最初っから私には、殺し合いしかなかったのかなって」
3人は何も言えなかった。優しい笑みを浮かべながら話している莉音に、どんな言葉をかければいいのか、わからなかったから。
「でも、違ったんだ。昔の私は、純粋に『戦い』を楽しんでた。強い人と戦って負けても、勝っても。その結果にかかわらず、戦っている時間を楽しんでた。この学園に入ろうと思ったのは、もう一度その楽しさに出会えるかもしれないって思ったから」
「だから……ここに?」
「うん。今までいろいろあったし、学園生活はあまり送れなかったけど、本当に充実してるよ。まだ1回しか戦ってないけど、この序列戦は楽しいしね」
「そう……だったんですね」
「それに、君たちとこうやって話すことができたし」
「それって……」
「ふふっ。また話そうね、2人とも。あ、あと苑箕さんは戦うことになったらよろしくね」
話し終わった莉音は、心の手を引いて2人の元から離れていった。2人はその背中を眺めながら、そろって大きな溜息をついた。
「やっぱり……遠いな」
「うん。そうだね」
「未彩はどうする?このあと」
「う~ん、特に決めてないけど……何か食べよ?」
「そうだな……食堂で良いか?」
「うん」
心と莉音が去った後、今が現実という実感が欲しくて、2人は食堂に向かった。初めて2人で出会った日のように、憧れの人のことを話すために。