第4章 第30話 「真の強者の剣」
浰馣との攻防の中で体勢が崩れた未彩に、さっきまでよりも大きくなった浰馣の剣が迫る。剣を握っている未彩の右腕は既に外にはじかれており、防御することも不可能。
「決まったか?!」
「さすがにあの状態じゃ無理だろ」
「今年は浰馣に軍配が上がったか」
今の状態では、未彩に反撃は不可能。このまま浰馣の剣によって、未彩の体は真っ二つに斬られてしまい、浰馣が勝利。
「……ねぇ心」
そんな未来が、訪れることはなかった。
「魔法剣の別名って知ってる?」
「魔法剣の……別名?」
未彩は、浰馣の剣を左手側に生成した剣で受けると同時に地面を蹴った。
「そう……最後まで諦めない剣。そして、どんな逆境すらひっくり返す剣」
浰馣の攻撃の勢いを利用して空中で一回転し、その途中で確実に未彩の剣が浰馣の首を捉えた。
「だから魔法剣は――」
残り時間は10秒。浰馣戦闘不能により、勝利したのは未彩の方であった。
「――『真の強者の剣』って呼ばれるんだ」
機械音声によって試合終了が告げられ、意識が徐々に現実に戻された観客達から、割れんばかりの盛大な拍手が送られた。
「『真の強者の剣』……正直、あんまりしっくりこないけど、さっきの戦い見てたらなんとなくわかるかも」
「でしょ?まぁ、半分くらい……とうか、ほとんど私が原因なんだけどね」
「莉音が?なんで?」
「なんというか……魔法剣自体の創始者みたいなところあるから」
「あ~……確かにね。莉音って魔剣以外の時は基本的に魔法剣だったしね」
「あはは……もとは夢幻想造伝なんだけどね」
莉音が苦笑いを浮かべていると、急に心が立ち上がった。
「……?どうしたの?」
「よし、莉音行くよ」
「え?どこに?」
「2人のところ。次観るやつまでまだ時間があるでしょ?」
「確かにそうだけど……でもなんで?」
「まぁまぁ。行けばわかるよ」
莉音の手を引っ張り、半ば強引に莉音を体育館の外にいる2人のところに連れて行った。
「やっほ~、未彩、浰馣」
「あ、心……久しぶり」
「……なんか用か?煽りに来たってんなら帰れ」
「まぁまぁ。って言うかあれ?なんで隠れてるの?」
「……うっ……」
「あ?なんだお前、こそこそしやがって」
「そ、そこまで言わなくても……」
心の後ろに隠れている莉音に、三者三様の反応を見せた。浰馣は男のような強い口調で。未彩はさっき戦っていた姿からは想像できないようなおどおどした様子で。心は純粋に疑問に思っているような声で。
「えっと……初めまして」
「……誰だ?」
「2人とも紹介するね。ほら、もっと前に出る」
「は~い……」
完全に乗り気じゃない感じで、莉音は2人の前に立った。
「えっと、初めまして。桜崎 莉音です」
「……はぁ?莉音?」
莉音の名前を聞いた瞬間、浰馣が殺意のこもった目で莉音をにらみつけた。
「お前は……本物か?」
「ちょ、ちょっと浰馣?!」
今にも斬りかかろうとしている浰馣を、未彩が慌てて止めようとしたが、むなしく後ろに弾き飛ばされてしまった。
「答えろ。本物なのか、お前は?」
「……あなたが何を求めているのかわからないけど」
莉音は、数㎝先にある浰馣の目をしっかりと見つめて答えた。
「本物だよ。ちゃんと」




