第4章 第23話 幸せの魔法
「それで、明日はどうするの?」
「う~ん、いくつか観たい試合があるから、それは観に行きたいかな~ってぐらい」
2人でずっと話ていた日の夜、お風呂上がりの2人は居間でくつろぎながら明日のことを話していた。
「莉音も?実は私もなの。それなら一緒に観に行かない?試合時間と会場次第だけど」
「えっとね……私が観たいのはこれとこれと、あとはこれかな」
「あ、それなら時間違うから一緒に回れそう!お互い観たい試合を一緒に観ましょ?」
「賛成!1人で観るより2人で観た方が楽しいしね」
「それに、試合に対して意見交換が出来るのは良い勉強になるし」
「……それ、私から一方的に吸収しようとしてない?」
「えーそんなことないよー?」
「なんで棒読みなの?!図星だよね?完全に図星だったよね!?」
どうにかしてごまかそうとする心を、莉音が逃がすまいとぶんぶん揺すり始めた。
「ちょ、ちょっと待っ……」
「逃~げ~な~い~で~!!」
「わかった!わかったからそれ以上は……うぷっ」
「あっ!ちょっと心待って!頼むからこんなところで吐か……!」
「もう……げんか……」
「ほんとごめん!謝るからちょっと待って頼むから!!」
本格的に吐きそうになっている心に、莉音は軽い回復魔法を使って吐き気を抑えようとした。が、それでも出てきそうだったため、魔力を使って無理矢理胃の中に戻した。
「うっ……」
「心大丈夫?!結構な荒療治しちゃったけど……」
「こんなことになるなら……いっそのこと吐きたかった……」
「それはやめて。頼むからそれだけはやめて」
無理矢理押さえ込まれたせいか、さっき以上に顔色が悪くなっている心は、死にそうな声でそう言った。
「本っ当にごめん!心の三半規管死ぬほど弱いこと忘れちゃってた」
「いや……うん……さすがにここまでされるとは……」
「あはは……まだ昼間の感じが残っちゃってるみたい」
莉音は申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、ゆっくりと心の頬に触れた。
「こんな私は……嫌?」
「ううん、それは違うよ……ってなにこれ暖かい」
「ちょっとしたお詫びってわけじゃないけど……私の創作魔法」
「へ~……魔法を作れるなんて、莉音は本当にすごいね。なんて名前の魔法なの?」
「名前……そっか。名前なんて、考えたこと無かった。この魔法、使ったことなかったから」
「そうなの?なんで?」
「この魔法はね」
莉音は心の頬から手を離し、真っ正面に正座して笑った。満開の桜のような、優しい笑顔だった。
「手のひらで触れた人に、幸せをわける魔法なんだ」
「幸せを……そっか。さっきの暖かさは、そういうことだったんだね」
心は、頬に残った暖かさの余韻を感じながら「ありがとう」と言った。
「そうだ!」
「どうしたの?」
「この魔法、『希望』って名前にしない?」
「『希望』?どうして?」
「なんとなく!でも、莉音が作ってくれたこの魔法は――」
頭に「?」を浮かべているような顔の莉音に、心が勢いよく抱きついた。そして、本当に困惑している莉音を抱きしめながら言った。
「私に、こんなにも幸せな希望をくれたから!」




