第4章 第17話 1人の時間、2人の時間
莉音が部屋に戻ったのは、散歩に行くといってから数時間後のことだった。本来ならば門限で寮が閉まっているのだが、学園序列戦の期間中はそれがなくなっている。
「遅くなりました。桜崎です」
「おう、今日も散歩かい?」
「はい。門限を過ぎてしまっているので、入室許可証を……」
「それなら必要ないよ。そうか……桜崎は今回が初参加だったな。学園序列戦中は門限がなくなるんだよ。自主鍛錬や、対戦相手の研究に時間をかけられるようにっていう、理事長が」
「なるほど……ありがとうございます。それでは、失礼します」
「ちょ~っと待った」
莉音が軽く会釈して自室に向かおうとすると、寮管理室の奥からいつものおじさんが呼び止めた。
「あ……いつもお世話になってます」
「おう。で、今日はなんかあったんか?」
「何かあったというか……1人になりたかったというか……」
「まぁ、そんなときもあるわな。帰ってきてすぐのところなんだが、少し話さねぇか?」
「え……でも」
「まぁまぁ。ちょっと待っとってな」
莉音が戸惑っている間に、管理室から50代ほどのおじさんが出てきた。
「よっ!」
「あ、どうも……それで、急にどうかしましたか?」
「ここじゃ話しにくいこともあるやろ?それに、他の人に聞かれたくないこともな」
おじさんは少し考えてから、奥にある食堂の方を指さした。
「よし、あそこにすっか」
「え?でもこの時間って……」
「大丈夫や。俺はここの管理室長やからな」
「そう……だったんですね」
「えっと、鍵は~っと……あった、これやこれや」
どこからか鍵束を取り出し、おじさんが食堂の鍵を開けた。
「……こんな場所あったんですね」
「そういや、桜崎は自炊してるんやったな」
「はい。ここ、こんなに広かったんですね」
「まぁな。この寮の9割くらいは使っとるし、それでもまだ余裕あるしな」
慣れた手つきで電気をつけ、他の人が入れないように鍵を内側から閉めた。
「さて……好きなところに座って待っててくれ」
おじさんはそう言うと、莉音を置いて食堂の奥の方に消えていった。莉音は、どうすれば良いかわからなくなり、言われたとおりに食堂の中央あたりの席に座った。
数分ほどでおじさんは戻ってきた。両手にお茶を持って。
「待たせちゃってすまんね」
「いえ……あの……」
「あ、これ飲みや。いや~、どの飲みもん好きなんかわからんかったで、何の変哲も無いやつにしてまったわ。ごめんな」
「あ、いえ……ありがとうございます」
「気にすんな。誘ったのは俺や」
おじさんは、急に真剣な表情になり、真正面から莉音の顔を見た。
「単刀直入に聞くぞ。桜崎……何があった」