第4章 第13話 不自然ないつも通り
「あ、2人ともここにいたんだ」
「あぁ。暇だったしな」
「うん……試合、無いから」
莉音と美鶴が生徒会室の扉を開けると、中には苺と将がいた。
「あ~、執行部のみんなは5回戦からだっけ」
「そう……正直、退屈」
「間違いない。だが、玲奈の負担を考えるなら、むしろ短い方だ」
「玲奈、去年も大変そうだったからね」
「そうなの?確かに、玲奈見てないかも」
「玲奈、今……理事長室」
「あ~……もしかして、本格的に忙しい感じ?」
莉音の質問に、将が少し呆れた顔で答えた。
「あぁ。対戦結果を全て1人でまとめてるからな。俺たちも手伝うって言ってるんだが、手伝わせてくれなくてな」
「うん……『これは理事長の仕事だ』って……一点張り」
「あはは。玲奈らしいと言えば玲奈らしいけど、なかなかに無茶するね」
「理事長室にいるのも、私たちに手伝われないようにするためだって言うんだから、もうどうしようもないのよね」
「てこでも動かん」
将はあくびをしながら、端末を起動して莉音に見せた。端末画面上では、せわしなく対戦結果と対戦表が更新されて続けていた。
「これ……全部玲奈が?」
「いや。勝敗自体は結界システムが勝手に更新してるんだが、2回戦出場者登録は手動でやる必要がある。それを全部玲奈がやってる」
「うっわ~……これ、すごい大変そう」
「玲奈曰く、選手情報登録に比べたらだいぶマシなんだと」
「それはまた別の話じゃ……」
「そんなことより……」
莉音と将の話に飽きたのか、美鶴が軽く手を叩きながら話を遮った。
「せっかく4人集まってるんだし、何かしない?」
「何か……って、具体的には……?」
「え?特にないけど?」
「そんなこったろうと思ったよ。でもま、暇だしいいぞ。何をする?」
「え~っと、え~っと……莉音は何したいの?!」
「えっ?!なんで私!?」
「特に意味は無いよ!!」
「そうだと思った!」
完全に丸投げしようとしている美鶴にかき乱されるように、生徒会室が一気に賑やかになった。その様子を眺めていた苺が、あれ?と首をかしげた
「……心は……?」
「確かにな。まだ寝てるんじゃないのか?」
「ううん。開会式は私と一緒にいたし、今もあの体育館で試合見てるんじゃない?」
「あのって、どの?」
「開会式があった場所。ほら、ちょうど私の試合もあそこだったし」
「あ~、それならあり得るかも。じゃあ待ってたら来るんじゃない?」
「そうか……莉音は今日試合だったのか」
思い出したかのように、将が対戦表を開いた。
「えっと……」
「Jブロックだよ。相手は司慈 弧華って子だった」
「……そういうことか。それで、どうだった?弧華は」
「強かったよ!来年また戦いたいくらい」
「そうか。戦えるさ。今以上に強くなった弧華と」
「うん。そうだと……いいな」
莉音は、少し悲しそうな表情で笑った。でもそれも一瞬で、すぐにさっきまでの無邪気な表情に戻った。
「そんなことより何する?私はみんなと気楽にできたら何でも良いから、具体案は美鶴に任せた!」
「えぇ?!何で私に返してくるの?!」
不自然ないつも通り。苺は、今目の前で笑っている莉音に、そう感じていた。




