第4章 第12話 「内緒」
体育館を後にした莉音は、ゆっくりと学園内を歩いていた。
「さ~て……今から何しよっかな~。みんなシード枠だし、次の試合は7日目だし」
「あれ?莉音じゃん」
「あ、美鶴。どうしたの?こんなところで」
「莉音こそ。もしかしてもう終わったの?」
「うん。ちょっと手こずっちゃったけどね」
「そうなの?!えっと相手は……あ~」
対戦表を見た美鶴は、何かを察したかのような表情でうなずいた。
「弧華ね~。あの子は戦い方が将に似てるところあるから、私は苦手」
「まぁ、そこに関しては完全に相性だからね。でも、私は楽しかったよ」
「それは……強い人と戦うことが?」
「う~ん……それはそうなんだけど、少し違うかな」
「少しって、どういうことなの?」
「えっとね……」
莉音は何かを言おうとしたが、美鶴の顔を見てそれを飲み込んだ。そして、いたずらな笑顔を浮かべながら、莉音は再び歩き始めた。
「まだ内緒」
「え~?教えてくれても良いじゃない」
「大丈夫大丈夫!美鶴もきっとわかるようになるから」
「『きっと』って何よ?!『きっと』って!」
「それも内緒~」
「結局内緒ばっかじゃない!?」
少し前を歩く莉音を追いかけるように、美鶴も歩き始めた。手を伸ばせば届くほど、ほんの少しの距離。そのはずなのに、美鶴には、莉音が遙か遠く、手の届かない場所にいるように感じた。
「そっか……莉音は……」
「ん?どうかしたの?」
「えっと……内緒!」
「え~!教えてくれたって良いじゃん!」
「さっきの仕返し!」
「あはは。これは一本取られちゃったね」
立ち止まり、無邪気に笑っている莉音を見ながら、美鶴は思わず苦笑いをした。莉音の強さを、再認識させられている気がして。
「そんなことより、莉音はこれからどうするの?何か予定とか」
「残念ながら何も無いんだよね……誰かと話したいんだけど、美鶴以外会ってないし。心もどっか行っちゃったし」
「あ~……それなら、生徒会室に行けば誰かいるんじゃない?」
「確かに。あそこだと誰かいそうだね!」
「それじゃ行こっか。今日は夜まで序列戦があるから、外はずっとこんな感じだし」
莉音は進行方向を生徒会室に変更して、まるでスキップしているかのように歩き始めた。そんな莉音を見ながら、美鶴は少し溜息をついた。
「どうしたの~?速くしないと置いてっちゃうよ!」
「はいはい。あ~もう……莉音には、ほんと敵わないな」
「え~?何が?」
「なんでもない!」
美鶴は、少し先にいる莉音のところまで走り出した。今度は、ちゃんと横に立つために。




