第3章 第87話 終わりの始まり
これは、少し昔の話。へびつかい座が、まだ呪いの魔力に手を染める前の話。
へびつかい座は、自分が神獣であると言うことに気付いておらず、「破滅種」とともに過ごしていた。
「なぁお前よ、どうしてこんな場所にいるんだ?」
「え?それってどういうことかしら」
そんなある日、一体の破滅種がへびつかい座に話しかけた。その内容は、その後のへびつかい座の運命を大きく変えた。
「お前破滅種じゃないだろ?それに、へびつかい座って名前、神獣じゃねぇのか?」
「そんなことないわ?私は自分の世界なんて持ってないもの」
「案外、自分が気付いてない事実って多いんだぜ。見て来いよ。お前なら見れるだろうから」
へびつかい座は、半信半疑で破滅種に言われるがまま神獣世界に足を運んだ。
「……嘘?」
そこにあったのは、かつてはいがみ合っていたはずの神獣達が楽しそうに暮らしている姿だった。その頃の神獣世界には、神獣以外の侵入を妨げるための結界が張られていた。
だが、へびつかい座は難なく神獣世界に入った。入れてしまったのだ。その事実が、へびつかい座の絶望をより一層かき立てる。
「なんで私だけ……?なんで?なんでなんでなんで……」
へびつかい座の声は誰にも届いていない。ただただ、無限の孤独だけがへびつかい座を飲み込んでいく。
「私は……絶対に許さない。絶対に!許さない!」
その瞬間、へびつかい座の中で何かが外れる音がした。
それから、へびつかい座の姿を見た者はいなかった。憎しみ、苦しみ、恨み……数多くの負の力をため込んだへびつかい座は、誰にも見つからないような場所にいた。
「私は!絶対に許さない!」
へびつかい座の魔力が、日に日に闇に飲み込まれていった。水色だった魔力は、少しずつ黒ずんでいき、やがて紫色に。その瞬間、へびつかい座は神獣と同等以上の力を手に入れた。呪いの魔法の1つと呼ばれている、結界魔法を手に入れることによって。
「今の私なら復讐できるわ……でも、まだその時じゃない」
へびつかい座は闇の深淵から神獣世界をのぞき込む。
「……?人間?」
その時、へびつかい座は神獣世界にいる1人の少女を見つけた。その少女は、神獣達の中で幸せそうに笑っていた。
「私にも……こんな未来が」
そんな考えがへびつかい座の頭をよぎる。その考えを振り払い、へびつかい座は魔力をさらに膨脹させた。
「もう終わったことよ……私は、神獣世界を滅ぼすためにずっと力を溜めていたのよ」
それが、始まり。歴史的な惨劇の──悲しい復讐の、始まり。




