第3章 第85話 莉音らしく
空間を静寂が支配する。莉音が体に纏っていた魔力は、全て空気中に消えていき、莉音の髪の毛が水色から白色に戻った。
「……もう……終わったの?」
「うん……みんな、お待たせ」
莉音は、心の声に答えるようにみんなの方を振り返って笑った。何も無かったかのように。自分は大丈夫だと言わんばかりに。
「みんな大丈夫?怪我と……か?」
「……莉音」
莉音の姿をじっと見ていた苺は、少し俯きながら莉音の前に歩み寄った。
「どうしたの、苺ちゃん?」
「ありがとう……また、立ち上がってくれて」
「何言って……わぷっ」
「もう……終わったんだよ。莉音」
苺は莉音を抱きしめると、軽く頭を撫でた。
「……そっ……か……私……」
「うん……莉音は、勝ったよ。最後まで……莉音らしく」
「何、それ……もう……苺ちゃん……それは卑怯……だよ」
苺の腕の中で、莉音は声を殺しながら泣いていた。今まで耐えていたもの全てが溢れ出ているみたいに、大粒の涙を流しながら。
「……心は、行かなくていいのか」
「私は……まだ、無理」
「そうか。でもまぁ……その気持ちは、俺もわかる」
「うん。でも、本当に辛いのは莉音よ……だから」
莉音と苺を見ていた玲奈は、ゆっくりと立ち上がり、座り込んでいる心の側まで、足を引きずりながら行った。
「今度は、心も莉音のそばにいてあげてね。ああ見えて、根は普通の女の子なんだから」
「うん……ありがとう、玲奈」
「何言ってんのよ。でも、短い間だったとはいえ……ううん、これを今のあなたに言うのは酷よね」
「あはは……そう、だね」
玲奈が心に寄り添っているのを見て、将はボロボロの体でゆっくりとヤウィーのもとに向かった。
「あ、将さん……?」
「少し話したいことがあってな……大丈夫か?」
「はい……私は、皆さんが守ってくれたのでほとんど無傷です」
「そうか……じゃあ、単刀直入に聞こう」
将はヤウィーの近くに座ると、その隣にヤウィーを座らせた。そして、優しい表情でヤウィーに話しかけた。
「秘石魔法……君は、一体何を隠してる?」
「やっぱり……気づいてましたか」
「あぁ。誰も聞かなかっただけで、みんな気づいていたと思うぞ。まぁ、身内に結界魔法使うやつがいるのが既におかしいと言われたらそこまでだがな」
「あはは……そうですね、どこから話しましょうか」
ヤウィーの表情が一瞬曇った。だが、すぐに覚悟を決めたように将の方を向き、話し始めた。
「私は……吸血鬼一族唯一の生き残りなんです」
 




