第3章 第73話 最後の神獣
神獣世界に戻った莉音は、全員に出迎えられた。
「莉音!」
「生きて帰って来れたんだな!本当によかった!」
「え……?」
何が何だか理解できずに直立してしまっている莉音をよそに、英雄が帰ってきたかのような勢いで莉音の周りで盛り上がっていた。
「心、カール……嬉しいのは分かるが、莉音が戸惑ってるぞ。玲奈もヤウィーも落ち着けって」
「おいおい、そんなこと言ってる龍護も嬉しいんじゃねぇのか?」
「それとこれとは別だ。物事には順序ってもんがあるだろうが」
龍護はそう言うと、ゆっくりと莉音の前に立った。
「……龍護?」
「よく頑張ったな。何があったのかは聞かねぇが、またいつでも良いから話してくれ。とりあえず今は、お疲れ様だ、莉音」
「ほんと、龍護は何でもかんでもお見通しなの?」
「知らねぇよ。ただ、今回だけはお前らしくもねぇ。そんな泣き跡残してたら分かるぞ」
「あはは……今回は、隠すなんて無理だったよ」
莉音は少し照れくさそうに笑うと、すぐに真剣な顔で全員を見た。
「みんな……戦いは、まだ終わってなかった」
「それってまさか?!」
「うん……多分、カールは分かったと思う。多分みんなも。ここまで深刻な事態に陥った原因……紫色の魔力の所有者」
「……最後の……神獣」
「そう。もうそろそろ仕掛けてきても……」
莉音が神獣世界の中心を見た。神獣世界の地面のような場所から、無数の紫色の蛇が不自然に湧き出て人のような形を作った。
『よくもまぁここまで戦い続けられたものねぇ』
「……あなたがへびつかい座?」
『そうよ。あまり話していいるのもつまらないわ』
そう言うと、へびつかい座は紫色の魔力を直径1メートルほどの球体にして飛ばしてきた。
「『無』解放!」
『あら?』
莉音は全員を守るように紫色の魔力球を受け止め、そのまま受け流して別方向に飛ばした。
『なかなかやるのね。楽しくなっちゃうじゃない』
「まぁ、出し惜しみするわけにはいかないしね。全力で行くよ」
『くくく……その威勢、いつまで続くのかねぇ。いいわ。来るが良いわ』
へびつかい座は余裕のこもった笑みを浮かべながら莉音をじっと観察する。その目に不気味な色が宿った瞬間、莉音が叫ぶように全員に告げた。
「みんな、行くよ!」
「「おう!!」」
最後になるかもしれない戦闘開始の合図で全員が剣を構える。最後の戦いは、既に始まっていた。