第3章 第63話 わかんないよ……
莉音は何も答えない。まるでカールの質問から逃げているかのように。
「もう一度聞くぞ莉音。莉音は、どこまで未来を見てる?」
「……わかんない」
「悪ぃが、俺はここで引くわけにはいかねぇんだ。莉音が何も思い当たらないって感じなら諦めがつく。でもな、今のお前が何かを隠してること、誰が見てもわかるぞ」
「……そっか……そう、だね。本当のこと、話す」
莉音は隠すことを諦め、肩をすくめて何かをこらえるようにに笑った。
「私は……実を言うと、未来予知の能力は無いの。未来予知さえできればって場面はいくつもあったし、それのせいで後悔したこともある」
莉音はゆっくりと話す。莉音以外の全員は声を一切発さず、ただ静かに莉音を見守っている。
「カールの質問、答えるね。私が見えてるのは、今から1年もしないうち……正確な日付はわからないけど、それくらいたったある晴れた日……もう一度、戦争が起こる」
「戦……争?」
「もう一度ってことは……あの終末戦争ってやつがか?!」
「うん。実は私……終末戦争の時に、敵の本部を全滅させきれなかったの。あと少しの所までは追い詰められたんだけどね」
「戦争」という言葉に三者三様の反応が起こった。驚く者、理解が追いつかなくなっている者、恐怖に震える者、じっと莉音を見つめる者……
その全員が共通して持った疑問を、カールは莉音にぶつけた。
「なんで戦争が起きるって言いきれるんだ?相手の本部がギリギリ残っただけだろ?」
「そう……なんだけどね。でも、もう一回戦争が起こること、実は1回目の戦争が終わる前から気づいてたんだ。その時は確信までは至ってなかったけど……ちょっと話が逸れたね。実際、私は2年間、世界を監視しながら待ってたの。それで確信した」
莉音は、悔しさの篭った目で言い放った。
「世界は変わんなかった。あの悲劇から何も学ばなかった。世界を『戦争』という悲劇から救うために必死に命削って戦ったのに、結局また振り出しに戻ってる。終末戦争の敗戦国は、もう一度戦って勝つために戦争の火種をばら撒き続け、戦勝国は勝ったという事実だけに目が眩んでそれを拾う」
莉音の髪の毛の色が、徐々に白色から水色に変わっていく。
「たくさんの人が死んだ。たくさんの無関係の人が殺された。たくさんの土地が死んだ。たくさんの動植物が死んだ」
誰も何も言えなかった。莉音の髪の毛が完全に水色になった時、莉音の顔の1部──右側目の横あたりから少しだけついている水色の大きな斑点が現れた。
「私は頑張った。本当は誰も殺したくなかったのに……私と一緒に戦ってくれる人はいなかったし、国は全て私に頼りっきりだった……私はちゃんと国を信じて戦ったのに……なのに……」
莉音の全身から悔しさが溢れ出ていた。拳は真っ白になるまで握りしめられ、涙を流し、小刻みに震えている。
「もう……わかんないよ…………」
ずっと軽く俯いていた莉音は、カールとシェリー、心がいる方を向いた。その顔は涙に濡れ、色んな感情がぐちゃぐちゃにぶちまけられたようだった。
「莉音……」
その顔を見た心は、少し俯きながらゆっくりと莉音に近づいた。
そして──




