第3章 第57話 勝ったよ
「莉音!最後!!」
「わかった!ありがとう皆」
莉音は、空中で死の寸前にいる人馬宮に向かってゆっくりと歩いていった。
「……久しぶりだね。覚えてる?」
『はぁ……はぁ……覚えて、おらん』
「そう……それじゃあ、あなたが私に教えてくれたこと、それも忘れた?」
『……知らぬ』
「『空を仰げば尊し、前を向けば儚し』」
「え……?!莉音、その言葉は」
莉音の言葉に驚愕を隠せない心と苺は、目を見開いて莉音と人馬宮を見ていた。
「最初、これがどういう意味なのか分からなかった。でも、私はみんなとすごしていく中で、何となく掴めたような気がする」
『……そう……か。わし、が……貴様に、そんなことを……』
「うん」
『覚えて……ないのが…………残念、だな』
「そうだね。あなたとは、もう1回ちゃんとお話したかったし。でも、これも運命なら、仕方ないことだね」
莉音はそう言うと、「無」で人馬宮の体を切り裂いて原型が分からないほどの肉片にした。
「さよなら。1人の英雄」
莉音が「無」を鞘に収めると、粉々になった人馬宮は重力に従ってボトボトと地面に落ちた。
「みんな、勝ったよ」
「いよっしゃー!!まじで?!俺たち勝てたの!?」
「そうみたいだな。全く、戦い自体が終わった訳では無いぞ?」
「んなこたぁ分かってるよ!でも嬉しいだろ?」
「そうね。ずっと緊張しっぱなしもよくないわよ、将」
「くっ……玲奈にそれを言われると異常に腹が立つ」
「ちょっとなんでよ?!」
莉音が笑いながら振り返ると、各々喜びを全力で噛み締めていた。
そんな中で1人、現実を受け入れられていない様子の心に、莉音が歩み寄った。
「聞こえなかった?勝ったよ」
「え?嘘……私の作戦で?」
「そうだよ。今回は心が英雄だよ」
「な、なんだかむず痒いね、それ」
「何言ってるの?素直に喜んでもいいんだよ」
「そう。この戦い……心1番頑張ってた」
「い、苺まで……あ〜、もう!」
心は恥ずかしさと嬉しさで顔を赤くしつつも、嬉しそうに少しじたばたしていた。その様子を見て苺と莉音は、顔を見合わせて笑った。
「ヤウィーもお疲れ様」
「いえいえ!私はただ支援しただけで……」
「ううん、その支援が無ければ負けてたかもしれないよ?だから、もっと自信持っていいんだよ」
「は、はい!ありがとうございます!!」
「そんなかしこまらなくてもいいのに」
莉音はその後、1番後ろにいるヤウィーの頭をポンポンしながら笑った。ヤウィーも、少し恥ずかしがりながらも、みんなと同じように勝利を噛み締めていた。
「さぁ、少し休んだら次に行こう」
「「おぉー!」」
莉音の声に全員が答える。この時はまだ全員生き残って帰れると思っていた。
そう、この時は──




