第1章 第18話 ある意味狂乱
私はその日、本当に懐かしい光景を夢で見た。理由はわからない。お父さんに会ったから?久しぶりに賑やかな夜を過ごしたから?多分、両方かな。
今も私は、夢の中にいる。そこは、どこまでも続く緑の草原だった。
「ねぇ!パパ遊ぼ!」
「仕方ないな〜。いいよ!」
走り回って、転がり回って、一緒に草花をめでたりして……お父さんと一緒に夢中になって遊んだ。
「莉音!美鶴!ご飯よ!!」
「はぁい!」
「お、もうそんな時間か」
お母さんが呼んでる。私はお父さんと一緒に家に───
・・・
ジリリリリリリリリリリ
「……うるさい」
私は鬱陶しいくらい鳴り響く目覚まし時計を止めた。時刻は午前6時。いつもなら普通に起きられるのに、今日はなかなか起きる気になれなかった。
「……懐かしいな……」
どうしてもあの温もりをもう一度感じたくて目をつむった。でも、そこにあるのは真っ暗な闇だけでそれ以外は何も無い。草原も、懐かしき家も、お父さんも、お母さんも……
「りっおーん!あっさだよ〜!!ってありゃ?起きてら」
「あ、心……おはよう」
「うん。おはよう!ん?あれれ?どったの?怖い夢でも見た?」
「え?どうして?」
「いやさ、泣いとるから何かあったのかなって」
え?泣いてる?そんなことあるわけないじゃん。そう思って目元を拭うと、手の甲が湿った。本当に泣いてたらしい。
それにしても、昨日から泣いてばっかだな……久しぶりに人の温もりに触れちゃったからかな?だとしたら早く慣れるか逃げるかしなきゃな。
「ううん。何も無いよ。それにしてもよく風邪引かなかったね。私なら高熱出して倒れるくらいのことはした自信あるのに」
「自覚はあるのね……でも大丈夫!バカは風邪を引かない!」
「いや、それ胸張って言うことじゃないからね」
おかしな人だな。でも、今なら思える。心がルームメイトで良かったと。理由?そんなの分かりきってるでしょ。
「さぁ、そろそろ準備しようかな……あ、そう言えば制服は?」
「ん?あ〜昨日汚れてたやつ?普通に考えてみ。あれを一晩で綺麗に出来ると思う?」
「いや、無理だね」
「ところがどすこ〜い!!」
いや!なんで力士なの!?ちょ!?四股踏みなら言うとか大丈夫!?ネタだよね!?ただ普通にボケただけだよね!?
「綺麗になっちゃったんだな〜!」
「え?……えええええ!!!??」
心がどこからか純白に戻った制服を持ってきた。え?!何を使ったの!?普通なら無理だよあの汚れ落とすの!
「な〜に、簡単な話よ!イフリートの血は魔力流し込めば一気に固まるから、それを取るだけ。そのせいで結局ほとんど寝れてない!だから朝からこんなテンション!許してちょ〜!」
なるほど、深夜まで頑張ってくれたせいで深夜テンションが朝まで持ち越しちゃったと……馬鹿なの!?まぁありがたいことだけど!そこまでしてくれたの!?私氏のためにわざわざ!?
「ぷ……ぷくく…」
「ん?」
「あははははは!!」
「え?!莉音どうしたの!?私と同じで壊れちゃったの!?」
「いえいえ……そうではなくて……ぷっ」
何だかおかしくなって大爆笑してしまった。そんな私を見て慌てふためく心が余計面白くてさらに笑ってしまった。不審そうに私を見てるのはわかったけど、大丈夫だよ。私はこれでも正常。
「心!ありがとう!!」
そして、自然とこみあげて言葉は笑顔とともにあるべき場所に渡ったのであった。




