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戦場に咲く赤き青薔薇  作者: 九十九疾風
第3章 神獣大戦
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第3章 第52話 私って

「ふぅ……これ結構魔力使うな。やっぱ」


 龍護は巨蟹宮が倒れたことを確認すると、魔法を解いた。


「龍護ありがとう……今回、私何もしてない……」

「んぁ?んなこたぁねぇよ。少なくとも、お前がこいつを引き付けてくれたおかげで、俺は倒すことが出来たんだ。数十センチでもズレてたら、結果は全然違ったさ」

「そう……やっぱり龍護は強いね」

「……ん?なんかあったのか?」

「あはは。なんかね、自分って何してきたんだろうって思っちゃって」


 心は下を向き、龍護と顔を合わせようとしない。その様子を見た龍護は、少し笑いながらその場に座り込んだ。


「話してみぃ。俺はずっとここで聞いてやるから」

「……そう、だね。わかった」


 心は立ったまま、腰に装備している剣に右手を当てた。


「私ね、昔は魔力を持ってるだけのただの子供だったの。苺と同じ孤児院にいて、終末戦争が起こる少し前に2人揃って孤児院を出たの」


 心は、ぽつりぽつりと話し始める。誰にも言ったことのない、ずっと隠していた思いを。


「莉音とは、結構昔に少しの時間だけ……でも、とてもいい時間を過ごしていたと思うの。だから、その時のことは今でも鮮明に覚えてる……それで、たまたま立ち寄った村で終末戦争の新聞を見かけたの」

「……そこには、なんて書かれてた?」

「『新生ギルド クロノア団戦地で大活躍!』っていう見出しで、4人分の名前ととても見慣れた、懐かしい顔の少女が死に物狂いで戦っている写真があったの。その時書かれてた名前で、莉音と……龍護の名前だけは少し記憶の片隅に残ったの。同じ国出身の人かもしれない!っていう喜びとともにね」

「そうか……だから、戦争生存者(サバイバー)なんだな」

「多分、そう。私と苺はそこで、莉音が頑張って戦っていることを知ったの。莉音は、私たちにとって命の恩人と言っても過言じゃないから、少し、不安になったの。それで、苺と話し合って、決めたの」


 心は今にも泣き出しそうな目で、拳を握りしめながら、小さく震えていた。


「強くなろって……いつかまた莉音と会えた時、一緒に戦えるように強くなろって……それで、私たちは旅と修行を、続けたの……あれは、そう……ちょうど、終末戦争終戦の知らせが世界中に出回り始めた時だった」


 心は、剣の柄をぎゅっと握った。


「私はこの子に……苺は、『霧の方舟(はこぶね)』と出逢った」


 地面にゆっくりと水滴が落ちる。


「私は……これで、並んで戦えるって……そう思った。でも……全然、追いつけて……なかったの。追いつけたと思っても……また、遠くに行っちゃうの……」


 それはやがて勢いを増し、乾いていた地面が濡れていく。


「だから……もしかしたら、私がこれまで……莉音に、追いつこうこれまで頑張ってきたこと……本当は、無駄だったんじゃないかって……」


 嗚咽も無く、鼻をすする音もなく、ただただ、涙だけが地面に落ちていく。


「私は……私は、天秤宮の話を聞きいた時……自分の未熟さ……愚かさに気付かされたの……追いつけるなんて……並んで戦うって思いが……莉音に対する、侮辱で、私のただのエゴなんだって……」


 流れる涙を拭うことをせず、心はただ、弱々しく震えている。


「そう思ったら私……どうすればいいのか……見えなく、なっちゃって……」

「莉音は莉音だ」


 龍護は立ち上がり、心に優しく歩み寄る。


「そして、俺は俺だ。過ごしてきた時間や、実力の差はある。時には、身近な人の強さに絶望する。だがな?それを受け入れて初めて、自分を自分と認められるんだ。お前はどうなんだ?」

「わ、私……は」

「お前はどうなんだ?顔を上げて、言ってみな」


 心はゆっくりと顔を上げ、クシャクシャになった顔で龍護を見上げた。


「私は……私、だよ」

「そうだ。それでいい」


 龍護は優しく心を撫でると、そのまま背中に乗せた。


「え……?私、自分で歩け……」

「出口までは連れてってやるから、それまでに涙拭きな。そんで、とりあえず今は俺に甘えとけ。そんな泣き顔、莉音に見られたくないだろ?」

「……そっか。そうだね……ありがとう」

「別に礼言われるようなことはしてねぇよ」


 龍護はゆっくりと歩き始める。背中に乗せた少女が、小刻みに震えているのを感じながら。








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