第3章 第50話 巨蟹宮
巨蟹宮世界の中は暗く、数メートル先が見えるか見えないかという状態だ。
「ここが……」
「さすがに目が慣れるまではまともに戦えなさそうね……あ、そうだ」
「ちょっと待て、ここで魔剣を解放しようってんじゃねぇだろうな?」
「……そ、そそそそ、そんなわけないじゃないですかぁ?!」
「そんな動揺して言われても信用ねぇよ」
龍護は心の頭を軽くはたいてから、周りに意識を向けた。徐々に目が慣れ始め、少し先に黒く光る目があること気付いた。
「なぁ、あそこ見えるか?」
「うん。あれが?」
「そうだろうな。あっちは多分まだ気付いてないと思うから、奇襲するなら今だろう」
「わかった。タイミングは任せる」
龍護は慎重に相手との距離を測り、相手の意識の隙間を狙って心に合図を送った。
「第3魔剣 雷電煉獄解放!!」
「甲虫解放魔法第3門 開穿磁!」
『な、なんじゃぁ?!』
攻撃の光に照らされて巨大な蟹が姿を現す。まぬけな声を上げつつも、巨蟹宮ダメージを最小限に抑える行動をとっていた。
「どう?」
「多分、少ししか効果は無いと思う。が、先制攻撃は成功した。このまま相手の準備が整う……ま、えに?」
『危ない危ない。だが、儂の不意を突くとは、ぬしらかなりのやり手だな?結構結構。だが、ちょっとばらし力不足と言ったところか』
世界に光がともる。その先には黒光りする頑丈な甲羅に覆われた巨蟹宮が、両方の爪を顔の前で交差するようにしていた。さっきの攻撃を受けたはずだが、一切の傷が無かった。
「なぁ?!」
「また……堅そうね」
『まぁな。じゃが、今の儂は全盛期に比べてかなりもろくなってしもうとる。理由はいろいろあるが、この爪以外への攻撃なら十分であろう』
「……なぜそのことを俺たちに教える?」
『儂の体はもうじき完全に操られるからな。今こうして話しているのは儂の中で消えたはずの自我が、まだ残っている結果だろうな』
「そうか……じゃあ、俺たちがお前を解放してやるよ」
「えぇ。あなたの意志も、未来に持ってくわ」
『そうか……』
巨蟹宮は3メートルはあろう体を起こし、威嚇するように両方の爪を持ち上げた。
『ならば証明して見せよ。ぬしらの力を』
巨蟹宮は地面に爪をたたきつけようと振り下ろした。
「あぁ!行くぜ心!!」
「もちろん!」
龍護と心は左右に分かれて飛ぶ。さっきまで2人がいた場所には巨大な穴が空き、半径1メートルの範囲に地割れが発生した。
戦いは、今始まったばかり。




