第3章 第48話 幼き記録
『コロス!』
紫色の魔力が将と玲奈に向かって伸びてくる。それをかわしながら宝瓶宮との距離を縮めていく。
「合図をしたら1、2、3でぶち込むぞ」
「わかった!」
『アァァア!コロスコロスコロスコロス!!』
「あと少し……まだ……」
将はギリギリまで我慢し、宝瓶宮の形が整う瞬間、玲奈に合図を送った。そして、3拍置いた後、宝瓶宮に2人分の魔力をたたき込む。
「閃光の宝剣の儀『楓』!」
「無限の宝剣の儀『無限陣』!」
無数の剣の雨と共にいくつもの閃光が空間を埋め尽くす。2人が立っている場所以外に安全地帯はどこにも無かった。
宝瓶宮は完全体になる寸前だったと言うこともあり、その場から一歩も動けない状態で攻撃の雨を受け続けた。
『グハァァ!』
「これで、本当に終わりだ」
数十分もの攻撃の雨が止むと、その場には宝瓶宮の残骸だけが残っていった。紫色の魔力は消え去り、それと共に世界が崩れ始める音が聞こえてきた。
「まずい。早くここか……ら?」
宝瓶宮世界から抜け出そうと将が走り出そうとしたとき、玲奈は宝瓶宮の残骸の近くにしゃがみ込んでいた。
「おい!何してるんだ玲奈!早くここから抜け出さないと!」
「ねぇ将」
「どうしたんだよ!何かあったのか?!」
「宝瓶宮を切ったときにちらっと見えて、見間違いかなって思ったんだけど……ほら、これ」
玲奈は、目の前にあった宝瓶宮の肩の部分を持ち上げて将に見せた。
「ん?え?!これって……」
「信じられないでしょ?でも、これは間違いなく本物よ」
「あり得るのか?こんなことが」
「わからないわ。でも、信じろと言われたら信じられるくらいには、現実的よ」
2人が見ている場所、そこにはまだ幼さの残る字で「りおんのともだち」と書かれていた。
「とりあえず、これを持って行こう。莉音に直接聞けば良いだろう」
「それもそうね。あまり時間もなさそうだし」
2人は、宝瓶宮の肩の部分を持って世界の出口へと向かう。徐々に崩れていく世界を背に、莉音に真実を聞くため。そして、莉音たちと一緒に戦うため。
「よし!出口が見えたぞ!」
「まだ世界が崩れるまでに時間はあるわ。このまま行けば間に合う!」
2人は世界の出入り口の中に飛び込む。世界が完全に崩れきる、数分前に。




